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無知蒙昧のモノ語り

映画、音楽、本、雑感などなど好きなものを好き勝手に書いてます。

『この世界の片隅に』〜映画感想文〜

※この記事は極力ネタバレしないように魅力を伝えようとしている記事です。

 

 

この世界の片隅に』(2016)

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 上映時間 126分

 監督・脚本 片渕須直

第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したこうの史代の同名コミックを、「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督がアニメ映画化。第2次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描く。昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた女性すずは、戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。それでもなお、前を向いて日々の暮らしを営み続けるすずだったが……。(以上、映画.comより)

 

 予告編

youtu.be

 

 

 明るく可愛く笑える、”この世界の片隅”の物語

 

 公開前からSNS等で話題沸騰になった本作。公開初日に、、、と思ったのですが近所の上映館は全回満席だったので、公開2日目に観に行ってまいりました。

 ですが2日目でも最終回まで満席、僕の観た最終回も立ち見ありの文字通り超満員で、すごいことになってるなと思いました。

 

 その後、日本語字幕上映と通常上映を1回ずつ、計3回鑑賞してまいりました。

 どの回も満席、来月からの上映館数も増えたみたいで、これから色んな人の元へ届くと思うと胸が熱くなりますね、、、

 

 いきなりですが結論を言います。

 

 

 大傑作です!まだ未見の方は今すぐ近所の映画館の席を予約してください!!オススメです!!

 

  はい。とりあえず結論は言いましたので、何も情報を入れたくない方は閉じて頂いてお近くの映画館の座席を予約してくださいね!笑

  

 

  「アリーテ姫」「マイマイ新子と千年の魔法」などの片渕須直監督ですが、お恥ずかしながら僕は本作が初めての片渕須直作品でした。

  さらにお恥ずかしいことに、こうの史代さんの原作も未読という不勉強さでございます。。。(原作はamaz○nでポチりました)

 

 なので片渕監督の作家性とか原作のエッセンスについてはわからないですので、あくまでアニメーション映画「この世界の片隅に」を観て感じたことを書いていきたいと思います。

 

 まず、とにかく「アニメーション」という表現の魅力、「気持ち良さ」みたいなものが満載の映画です!

 

 本来は「ただの絵の連続」でしかないのに、その動きや表情から「確かにそこに生きている」という風に感じられるのがアニメの魅力だと僕は思っているのですが、本作はその点において圧倒的なクオリティです。

 

 「普通の日本のアニメーションは、なるべく原画と原画の間をつなぐ『中割り』を省略して作画枚数を節約しながら、動きの溜めとか緩急のある、キレがよくてカッコいい動きに感じられるような表現がどんどん追求されてきました。(中略) でもそれに対して人間は動きの幅がすごく小さいショートレンジの仮現運動は、実際の運動に近いリアリティを感じるかもしれない……」(パンフレットの監督インタビューから抜粋)

 

 この監督のインタビューの通り、本作の登場人物のほとんどは動きが非常にゆったりしています。

 その小さい動き幅でじわ〜と人が動くのがとてつもなくリアルに思えて、「ただの絵」が「実際に生きている」というアニメ特有の喜びみたいなものを感じられて、それだけで感動します(笑)

 

 仕草の細かさでいうと個人的には、嫁ぎ先から手紙を書くシーンで書き慣れていない苗字は遅く、書き慣れた名前はサッと書くみたいな描き方にも唸りました。

 

 

 で、こういったアニメーションの魅力とか表現のアプローチが、作品のテーマに対して的確かつ完全に合致していて、本当にすごいなと。

 

 要は、「戦時下での人々の生活」を描いた本作の中で、主人公のすず(のん)を含めた登場人物が「ただ生活している」ことにとてつもなく感動や喜びを感じる作りになっているわけです。

 

画像では伝わりにくいんで是非劇場で(笑)

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 また、アニメーション表現からの動きのリアリティの追求に加えて、当時の広島の風景や暮らしの様子を徹底的に調べて、それを再現したことによるリアリティもあります。

 監督インタビューなんかを読むと、実際に〇〇通りの□□店の店主はどういう人だったかまで調べ上げたそうで、ちょっと狂気すら感じる徹底ぶり(褒めてます)

 

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 そのおかげで観客としては、この映画で描かれる時代を追体験しているかのような没入感を感じることができたんだと思います。

 

 リアリティといえば、音のリアリティもあります。料理や掃除のような生活音、空襲の音、対空砲や機銃掃射の音、すべてがリアルに感じられて戦闘シーンなんかはめちゃくちゃ怖いです。

 

 で、この徹底した調査と表現による実在感の追求の果てに出来上がった主人公すずの声をしたのん(本名 能年玲奈)がとてつもない名演をしています!!

 すずという女性は、下手したらイライラするぐらいボーッとしてて(笑)それでいてしっかり芯はある人なんですが、その微妙なニュアンスを表現しきったのんさんは本当にすごいです!

 

 「ふへぇ」や「むぅん」とかの言葉とも言えない呻き声(笑)のニュアンスから、幼馴染の水原さん(小野大輔)とのあるエピソードでの、ちょっと大人っぽい声まで完璧にハマっていて、「すず」というキャラクターに文字通り命を吹き込んだともいえる素晴らしい名演でした。

 

 以上の要素から生まれた「すず」という人物が本当に最高でして!!

 

 冒頭、少女時代のすずさんのエピソードから始まるのですが、正座して砂利を踏んで痛そうにするすずさんとか、重い荷物を背負い直すすずさんとか、バケモンにさらわれるすずさんとか、まさに魅力的としか言いようがない魅力!(錯乱した文章)

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 このすずさんが魅力的だからこそ、後に理不尽な暴力に巻き込まれていく様が本当に辛いところもあるのですが、映画を観た感触としては、全編通して非常に笑える作品になっています。

 

  戦時下の生活を描いているにも関わらず"笑える"ようになっているのは、なるべく戦争をセンセーショナリズムで描かないことに加えて、やはりすずさん含めた登場人物が普通に生活をしているからだと思います。

 

 我々未来人から見たら昭和20年は悲惨極まりないことが起きた年ですが、その中で生きていた人は、自分たちの普通の生活を送っていた。それは、状況は違えど現代の生活となんら変わらないもの。だから普通に笑うし、たわいもない喧嘩もする。

 そういったことを、本作のとてつもない実在感が観客に肌感覚として伝えているようになっていると思います。

 

  さて、先ほどから「実在感」だの「リアリティ」だの書いてきましたが、本作は徹底した「現実=リアル」を描いているわけではありません。そしてこの部分こそ、本作の感動的な部分だと思います!

 

 本作はハッとする場面で美しい映像的な飛躍の瞬間がありまして。

 突然画面が水彩画になったり、突然カリグラフィー的な映像になったりして、まさしく映画的な飛躍が素晴らしいです!僕はこのイマジネーションの飛躍に序盤から完全に引き込まれました。

 

  これは是非劇場で体験していただきたい!!

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 この映像の飛躍が起きるのは、すずさんの感情が大きく動く時でして。というのは、すずさんは絵が好きで、絵を描くことで感情を表現する人であると。

 つまりこの映像的なイマジネーションの飛躍は、すずさんが見ている「現実=リアル」なんですね。そしてその美しさ、鮮烈さたるや。

 

 物語の中盤、あることがきっかけですずさんの表現する術が奪われてしまうのですが、失ったからこそ新しい想像力が生まれ、得られたものもある。ラストの一連のシークエンスは、そんな想像力の力強さや希望も讃えていると感じました。

 

 

 少女時代に養った豊かな想像力、少女から大人になることの難しさとその過程で得た愛する人たちとの生活、戦争という理不尽な暴力、たくさんの死。

 全部ひっくるめて、この世界の片隅に自分の居場所があれば生きていける、という本当に勇気と希望をもらえるような作品でした。

 

 

 大仰な文章を書いてしまいましたが、基本的には明るくて笑えて可愛らしい、それでいてズシンと感動がくる映画です!!また、あの時代を歴史としてではなく現在と地続きであると実感させてくれる映画です。

 

 細かいこと言い出したら、隅々に散りばめられた伏線の上手さが最高!!すずさんと周作の夫婦が可愛くて最高!!突然色っぽくなって最高!!灯火管制が解かれて電気の覆いを外すシーンはやっぱり最高!!ご飯うまそうで最高!!原爆のシーンがビックリ!!エンドロールの最後の最後まで優しい目線で最高!!コトリンゴさんの音楽最高!!

 と、挙げ出しだらキリがないぐらい最高!!

 

 本当に情報量が多く、観れば観るほど色んなことがわかってきて感動が増しますし、何よりこれは日本映画史に残る大傑作です。

 これから何十年、何百年と色んな世代に観られてほしい作品だと思いました。

 

 これからまだまだ劇場も増えていきますし、劇場の雰囲気込みで感動できる作品です!僕も原作読んでからまた観に行こうと思います(笑)

 

 今年ベスト、いや生涯ベスト級の映画でした!!是非劇場でご覧ください!超オススメです!!

 

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早く届いてほしい限りです 

この世界の片隅に コミック 全3巻完結セット (アクションコミックス)

公式ガイドブックも気になりますね

この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

本作のラストの時代はこっちに繋がるという。必見ですね。

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初見時はこれを思い出しました!結構近い部分があるかも。

この空の花 -長岡花火物語 (BD通常版) [Blu-ray]

 

 

『淵に立つ』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

 『淵に立つ』(2016)

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 上映時間 119分

 監督・脚本 深田晃司

「歓待」「ほとりの朔子」などで世界的注目を集める深田晃司監督が浅野忠信主演でメガホンをとり、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した人間ドラマ。下町で小さな金属加工工場を営みながら平穏な暮らしを送っていた夫婦とその娘の前に、夫の昔の知人である前科者の男が現われる。奇妙な共同生活を送りはじめる彼らだったが、やがて男は残酷な爪痕を残して姿を消す。8年後、夫婦は皮肉な巡り合わせから男の消息をつかむ。しかし、そのことによって夫婦が互いに心の奥底に抱えてきた秘密があぶり出されていく。静かな狂気を秘める主人公を浅野が熱演し、彼の存在に翻弄される夫婦を「希望の国」「アキレスと亀」の筒井真理子と「マイ・バック・ページ」の古舘寛治がそれぞれ演じた。(以上、映画.comより)

 

 予告編

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 「家族」を通して人間の「孤独」を描いた傑作

 

  以前、「角川映画祭」にて「時をかける少女」鑑賞時に、本作の予告編を観てから絶対に観ようと思っていた作品であります。

 お客さんの入りはまずまずだったのですが、退場する人全員が「何か深刻な顔」をしていたのが印象的でした。

 僕自身、鑑賞後しばらく精神が不安定になりました(心が弱い)

 

 結論から言えば、カンヌでの受賞も納得の傑作で僕も非常に楽しんだのですが、気安く人に勧められない作品です(是非観ていただきたいのは前提ですが…)

 

 というのもこの作品、119分の上映時間中ずっと地獄を見せられているような気分になるので、本当に見ていて辛いです(褒めてます)

 

 「あの男が来るまで、私たちは家族でした」というキャッチコピーなのですが、僕から言わせてみれば「あの男が来て、私たちは家族じゃなかったことがわかった」です。

 

 

 オープニング、娘の蛍(篠川桃音)がオルガンの練習をするショットから始まるのですが、画面の乾いた色調やメトロノームの音が不穏な感じで素晴らしいアバンタイトル

 

 そこから家族の食事のシーンになるのですが、章江(筒井真理子)と蛍の会話に全く入らない利雄(古舘寛治)の様子から、すでにこの家族は壊れているという雰囲気に満ちています。

 その後、八坂(浅野忠信)がやってくるのですが、周りの景色から完全に浮いた真っ白なシャツを着て登場します。

 

 背筋も伸びてて真面目そう

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 見るからに何かあると感じさせる登場シーンですが、そこからの利雄との会話で八坂は出所してきたばかりであることがなんとなく示されます。

 

 こんな感じで本作は全編通して、何気ない会話や色の演出でキャラクターを説明していくという非常に映画的な見せ方がされていて、なおかつ役者さんの演技のニュアンスで会話の内容と人物の感情が一致していないように見せられたりして、本当に巧みなあたりだと思いました。

 

 特に浅野忠信さんと古舘寛治さんの「何考えてるかわからない感」がすごいです。

 

逃げ恥のバーのマスターは表情豊かですね 

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 浅野さん演じる八坂はすごく丁寧で真面目な人だと思ってたら乱暴になったり、普通のこと話してても表情が読めなかったり。

 古舘さん演じる利雄も無口で淡々としてるんですが、八坂に対しては親しげに会話してて、でもなんとなく裏がありそうな感じで、という微妙なニュアンスが入った演技で、お二方とも流石と言うしかないです。

 ってか浅野さん自体、何考えてるかわからない感ありませんか?(失礼な文章)

 

 その八坂が章江に自分の犯した罪を独白するシーンから物語が大きく動き出すのですが、この独白シーンのインパクトたるや。

 八坂が自分の罪を懺悔するのをアップで捉えているのですが、環境音がどんどん消えていって、ゆっくりクローズアップ、背景もほとんど見えないようにピントが外れていくという演出で、こちらがどんどん八坂に引き込まれていく感じになっています。

 

 で、敬虔なクリスチャンの章江も八坂の懺悔を聞いて引き込まれてしまうわけです。

 その結果、章江と八坂は"イイ感じ"になっちゃたりしちゃったりします。まぁ章江的にも無口なパッとしない髭面の利雄より清潔感のあるイケメンのほうに惹かれるよなとも思いました(非常に失礼な文章)

 

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 さらに八坂はオルガンも弾ける系男子ですので蛍も八坂に懐いていきます。

 

 こんな感じでこの一家が八坂によってバランスを失っていく中で、徐々に八坂の本性が明らかになっていきます。

 この八坂の本性が出てくる場面で、必ず赤色が出てくるのもうまい演出だなぁと。

 赤いバラ、赤いTシャツ、赤いランドセル、赤い橋、、、と、その後の展開で八坂の影を思い出す装置にもなっていて見事な演出だと思いました。

 

 特に物語のターニングポイントとなる決定的な事件での赤色演出は素晴らしいです。

 真っ白なツナギを着た八坂がジッパーを下ろしてツナギを脱いだ瞬間、真っ赤なTシャツが出てくる。八坂の暴力性を映像的に見せていて巧みですし、何より観てるこっちがハッとしてしまう見事な演出でした。

 

 で、決定的なある事件が起きた後の後半は、本当に地獄を見せられているような気分でした。

 八坂が不在の空洞になり、そこに翻弄され続ける壊れた家族。無口な利雄はよく喋るようになり、壊れたはずなのに夫婦の会話が増えていく何か居心地の悪さ。

 全ての日常的な風景が、何かイビツに見えてきて心底恐ろしいなと感じました。

 

 そしてこの後半、章江を演じる筒井真理子さんの演技が本当にすごい。ってかこの映画で素晴らしくない役者さんはいません!!!

 まず、月日が経ったことが一目でわかる筒井真理子さんの見た目。デニーロアプローチならぬ真理子アプローチです!老けっぷりがすごい!(褒めてます)

 

 悲惨な事件と八坂の失踪により完全に病んでしまった章江ですが、観ていて本当に辛い。未だ状況を受け止めきれず、なんとか普段通りの生活をしようとしている章江の不安定さに「この人いつ自殺してもおかしくないぞ」と、めっちゃハラハラさせられます。

 

 そこから新しい従業員の孝司(大賀)が絡んできてクライマックスになだれ込んでいくのですが、事ここに至って「なんでこんなことになった」と感じるわけです。

 

 本作ではある2つの事件の真相が観客に示されません。それはつまり「あの時こうしていれば」という時の、決定的な「あの時」がわからない状態で物語が進んでいくので、観客も登場人物も根本的な解決策がわからないという状態に陥るわけです。

 

 これによってもはや取り返しがつかない状況の悲惨さを感じさせられるので、観終わった後も胸がキリキリして、結果的に僕は若干体調が悪くなりました(笑)

 

 クライマックス、章江が見る夢の切実さや幻想的な蛍のシーンも映画的な想像力の飛躍を感じる素晴らしいシーンですし、文字通り"淵に立つ"八坂の不気味な表情に心底ゾッとします。

 

 そしてラストの利雄のアクション。利雄の罪と罰なのか、あるいは人間が本質的に抱える孤独への希望的な回答なのか。

 鑑賞後一ヶ月経っても未だにわからないですが、後者であってほしいと思います。

 

 エンドロールに流れる主題歌も素晴らしいですし、脚本、演出、演技、どこをとっても一級品でした!

 あと、パンフレットも素晴らしいです!充実したインタビューもさることながら、なんと第一稿のプロットと、決定稿のシナリオが載っています!これで800円は安すぎる!!

 非常に重たい作品ですし、鑑賞後、色々考えてしまう映画ですが、所謂"後味の悪い映画"とは一線を画した大傑作だと思います!

 

 僕がモタモタしてた間に上映館数が減ってきていますが、映画館という集中できる環境で人間の心の闇の淵に立って頂きたいので、是非映画館でご鑑賞ください!おすすめです!!

 

 

 

小説版の帯文は二階堂ふみ

淵に立つ

深田監督作のこちらも観てみようと思います

 

歓待 [DVD]

 

この主題歌も素晴らしかった!

 

Lullaby

『ダゲレオタイプの女』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

『ダゲレオタイプの女』(2016)

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 上映時間 131分

 監督・脚本 黒沢清

「岸辺の旅」で2015年・第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞を受賞した黒沢清監督が、オール外国人キャスト、全編フランス語で撮りあげた初の海外作品。世界最古の写真撮影方法「ダゲレオタイプ」が引き寄せる愛と死を描いたホラーラブストーリー。職を探していたジャンは、写真家ステファンの弟子として働き始めることになったが、ステファンは娘のマリーを長時間にわたって拘束器具に固定し、ダゲレオタイプの写真の被写体にしていた。ステファンの屋敷では、かつて首を吊って自殺した妻のドゥニーズも、娘と同じようにダゲレオタイプ写真の被写体となっていた過去があり、ステファンはドゥニーズの亡霊におびえていた。マリーに思いを寄せるジャンは、彼女が母親の二の舞になることを心配し、屋敷の外に連れ出そうとする。主人公ジャン役をタハール・ラヒム、マリー役をコンスタンス・ルソー、ステファン役をオリビエ・グルメがそれぞれ演じる。(以上、映画.comより)

 

 

 予告編

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 永遠という幻想に魅せられた男たちと、献身を貫いた女の愛の物語。

 

 

 あの黒沢清監督がオールフランスロケ、外国人キャスト、全編フランス語で初の海外進出作品となれば観に行くしかない!!ということで鑑賞してまいりました。

 

 黒沢清監督といえば、本ブログでも今年公開の「クリーピー 偽りの隣人」を扱いました。

  その記事の中で、僕なりに黒沢作品の魅力を書いたのでそちらを参照していただければと思います。

heinoken.hatenablog.com

 

 つまり、微妙に仕組まれた違和感のディテール、それが積み重なっていき物語のある一点で別の世界と繋がってしまう。

 そして登場人物たちと一緒に別世界にどんどん引っ張られていく感覚や、日常の世界と別世界、現実と夢の境目がわからなくなっていく感覚、みたいなものが黒沢作品の魅力じゃないかと思っております。

 

 そういった作品の構造や、細かい違和感のディテールにハマるかどうかで黒沢作品の評価が分かれるのかなーとも思います。

 

 そして本作も、半透明のカーテン、少しだけ開いた扉、鏡越しの人物などほとんどの黒沢作品で出てくるモチーフが満載です。これだけでなんとなく画面から不吉さが滲み出てくるから凄いんですよ!

 

 色の使い方に関しても、枯れた庭と温室の綺麗な花、全体的にくすんだ色の風景に印象的に差し込まれる、赤青緑の鮮やかさなど、やはり2つの世界を意識させられます。(ちなみに深読みしすぎかもですが、赤青緑は光の三原色でこのあたりもなにかあるのかなぁとか、、、)

 

 ロケ地についても、パリ市内と郊外の境目を探し回って見つけたという面白い話がありまして、黒沢監督の境目を描くことへの意識が画面に出ています。

 オープニングの開発途上の町から屋敷へ歩いて向かうシーンの、どんどん人気がなくなっていく感じとか「これから何か不吉な場所へ行く」みたいな印象がありましたし、クライマックスのドライブも、破滅に向かう感じがして、ロケ地の効果が生きてたんだなーと思いました。

 

 あとなんといってもインパクトがある小道具は、本作の一番の目玉商品、拘束具ですね!(ジャパネッt、、、)これの拷問器具感たるや、、、 

 

 カチャカチャネジ締めていくわけですね

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 ざっくり説明しておくと、ダゲレオタイプというのは世界最古の写真撮影方法らしくて、露光時間が長いので被写体が動くとブレてしまうから、被写体を固定しなければならないというまぁ不便な撮影方法です。(不適切な表現)

 

 で、写真家ステファン(オリヴィエ・グルメ)はこれを使って過去には自分の妻を、妻が亡くなった後は娘のマリー(コンスタンス・ルソー)を撮影しているわけです。

 

 出来上がった写真がコチラ!

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 予告編でもチラッと見れるこのシーンが個人的には好きでして。完全に固定されたマリーの拘束具を外した瞬間、力が完全に抜けたマリーが倒れるというシーンなんですが、さっきまであった魂が一瞬にして無くなったという感じがしてゾッとする強烈なシーンでした。

 コンスタンス・ルソーさんの体の動きが凄いんですよね〜。人形みたいな感じで。

 

 で、マリーとイイ感じになったジャン(タヒール・ラハム)としては「こんなの狂ってるよ!」とマリーと屋敷から逃げるように画策しだします。

 そこに、ちょうどいいタイミングで「土地開発のために屋敷を売ってくれ」という話が舞い込んできて、これをステファンに提案。

 しかしステファンとしては、妻の幽霊に怯えながらも屋敷への執着が強いため、この話を拒否。

 

 そんな中、ある時ステファンが亡き妻の声を聞き、声を追いかけると妻の幽霊が。そこにマリーも加わり、、、というシーンがあるのですがここが素晴らしいです。

 

 声を聞いて妻を探すステファン、妻を見つけるステファン、父を探して部屋に入ってくるマリー、そして決定的なある事の顛末までをワンカットで撮影しているのですが、徐々に暗くなる照明だったり、明らかに死のメタファーであろう印象的な階段だったり、これぞ映画だ!というシーンで、本当にスリリングでした。

 

 その直後に、黒沢監督十八番のスクリーンプロセスを使った車のシーンがあったりして。この一連のシークエンスで「別の世界に連れて行かれる」という感覚があって、これぞまさに黒沢映画だという感じがしました。

 

 そこからは現実と幻想の境目が無くなっていき、結果的に悲劇的な展開になっていきます。

 しかし、悲劇的であるのと同時にとても美しいのが本作の魅力でもあります。

 

 終盤、ステファンが妻の亡霊と対峙するシーンがあるのですが、幽霊の姿が恐ろしいけど同時に見とれてしまうような不思議な印象がありました。

 ハイスピードカメラ映像と普通の速度の映像を並べたり、幽霊の顔を明るすぎる照明&ドアップで撮っていたり、斬新な映像の効果もあった気がします。

 

 また、一緒に住むことになったマリーとジャンの生活も意識的に暖色が配されたりしていてすごく暖かい、幸せな感じで撮られていてなんかロマンチック。

 だからこそのクライマックスの悲劇なのですが、観ていて本当に美しいんですよ。

 

 で、観終わった後の印象として、すごく黒沢監督の映画観を感じる映画だったなぁと。

 というのは、「カメラというものは被写体から物語やドラマをはぎ取ってしまうもの」であり、「そのカメラを使って物語を描こうとする映画」というものはそもそも破綻している、というようなことを黒沢監督がおっしゃっていて。(『黒沢清、21世紀の映画を語る』参照)

 本作のダゲレオタイプという題材が、まさにこの黒沢監督の映画観にピッタリじゃないかと思いました。

 

 ダゲレオタイプによって、「写真という作品」に女性を永遠に美しく固定しようとするステファンと、その被写体に惹かれてしまった故に幻想に取り憑かれることになるジャン。そして写真に撮られることで幻想に固定されたマリー。

 

 この二人の男がまるで、写真の連続によって「映画という幻想」を生み出す映画監督と、それに魅了されてしまった映画ファンに見えてきて、だんだん他人事じゃなくなってきてしまうぐらい僕はこの映画にハマりました(笑)

 

 なのでクライマックス、幻想から醒めてしまうシーンはその切実さに涙なしには見れませんでした。

 

 あと、やっぱりどうしてもヒッチコックの「めまい」を思い出しました。

 幻想に取り憑かれたジャンやステファンと、その幻想に付き合ってしまったマリーの関係が「めまい」におけるスコティとジュディと似ていますし、悲劇だけど官能的に美しい物語というところで、近いなぁと思いました。

 

 細かいことですとコンスタンス・ルソーさんの目の演技がすごいとか、グレゴワール・エッツェルの音楽がいいとか、最後のタヒール・ラハムさんの表情が素晴らしいとか、うまく言語化できませんでした(語彙の貧困さが露呈する文章)

 

 

 とにかく美しく不吉!映画的な魅力満載!そして紛うことなきフランス映画であり、紛うことなき黒沢映画!!

 映画という幻想に魅せられてしまった人たちに、オススメです!!

 

 

めっちゃ怖いのに不思議と暖かい気持ちになります。

岸辺の旅 [Blu-ray] 

未見ですが、本作と近いらしいので観たいですねぇ。

アンジェリカの微笑み [DVD]

 非常に読み応えのある本です!

黒沢清、21世紀の映画を語る

 

『何者』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています。

 

 

 『何者』(2016)

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 上映時間 97分

 監督・脚本 三浦大輔

桐島、部活やめるってよ」の原作者として知られる朝井リョウが、平成生まれの作家として初めて直木賞を受賞した「何者」を映画化。就職活動を通して自分が「何者」であるかを模索する若者たちの姿を、佐藤健有村架純二階堂ふみ菅田将暉岡田将生山田孝之という豪華キャストの共演で描いた。監督・脚本は、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「愛の渦」といった映画でも高い評価を得ている演劇界の鬼才・三浦大輔。演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人。何も考えていないように見えて、着実に内定に近づいていく光太郎。光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら、焦りを隠せない隆良。22歳・大学生の5人は、それぞれの思いや悩みをSNSに吐き出しながら就職活動に励むが、人間関係は徐々に変化していく。(以上、映画.comより)

 

予告編

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 「何者」でもないやつらの就活ミステリー劇場

 

 

 「桐島、部活やめるってよ」そしてハロオタの僕としては、Juice=Juiceが主演を務めたドラマ「武道館」の朝井リョウ原作の本作。

 誠に申し訳ないのですが、朝井リョウさんの本は全く読んだことがなく、さらには三浦大輔監督作品も観たことがありません、、、

 なので「あー今っぽい題材で若手俳優集めた映画かぁ」と完全にナメておりました(失礼な態度)

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 結論から言うと、めちゃくちゃ面白かったしすげー痛かったです。

 

 周到に張られた伏線にもまんまと引っかかったし、演出面でも序盤と終盤で照明の使い方を変えていたり、なにより終盤の舞台を使った演出の見事さに圧倒されたり。とにかく細部まで丁寧に作られている印象でした。

 

 キャスティングも素晴らしくて、おそらく役者本人のイメージ込みのキャスティングなのですが、全員が役にハマっていて実際にそういう人にしか見えないという。

 菅田将暉さんのちょっと軽いけどイイやつな感じとか、有村架純さんの真面目優等生のイイ子な感じとか、岡田将生さんの「俺はちょっと違うんだよねぇ(笑)」感とか(褒めてます)、二階堂ふみの「意識高い大人な私」感とか(褒めてます)、とにかくバッチリで。そしてあの佐藤健さんの「普通のやつ」感。めっちゃイケメンなのにあの凡人感。驚きました。前述した鑑賞前の自分の失礼な態度に腹が立ちますね。。。

 

 

 

 で、感想を一言で言えば「観ていて気まずいからやめてくれ!!」と叫びたくなるような映画でした。

 

 いわゆる「就職活動」的な合同説明会の様子やグループディスカッション、そして面接試験での「一分間で自分を表現してください」という面接官の質問とそれに答える就活生。その雰囲気のリアリティはすごく出ていたと思います。

 

 それこそ就活最前線に立っていた友人なんかは「これはある意味ホラーだった」というほどのもので、そんなに就活に熱心に力を入れていたわけでは無い僕でさえ、「え、あいつが内定!?」っていうよく考えたら失礼な驚きとか、「黙って受けたら知り合いがいて、しかも自分は落ちて相手は受かった」みたいなことは身に覚えがあって、観ていてすごく気まずい気分になってくるという。

 

 まぁ友達の少ない僕としては、序盤、理香(二階堂ふみ)の部屋を「就活対策本部」として、みんなで集まってエントリーシート書いてる様子とかご飯食べてる様子を見て「なんだこいつら、リア充やんけ!」と思っていたわけですよ。

 めっちゃ羨ましい学生生活感

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 でも同時に、分析家でもある拓人(佐藤健)が冷静にちょっと皮肉っぽく何かを言うとちょっと空気がピリつく感じとかそれだけでちょっとサスペンスフルでよかったですね。

  こういう表面上だけのコミュニケーションというのは「桐島〜」にもあった描写なので、朝井リョウさんの得意とする部分なんですかね。

 

 そんな感じで登場人物たちが見事に就活地獄にハマっていく様子もいたたまれなくなってくるんですが、なにより本作の「痛い」部分は現代的なディスコミュニケーションとそれによって肥大した承認欲求の取り扱い方だと思うんですね。

 

 

 SNSによって情報の入手が手軽になったり「繋がりを作る」ことが簡単になってすごく便利になった反面、その情報によって自分を他人と比較することも簡単になった時代。ましてやSNSを使っていると、自分が他人からどう見られているか気になりやすくもなりました。

 

 そんな中で、自分に拠り所が無い時に「自分より価値がありそうな人」を見てしまうと、自分の価値がわからなくなることは多かれ少なかれあると思います。

 

 「自分は何者でも無い」というコンプレックス、膨れ上がった自意識から「自分より価値がありそうな人」に対して批評的な態度をとったりしてしまう。そのことで、視野が狭くなって他人への想像力が持てなくなる。

  これこそが決定的にコミュニケーション不全にさせることであり、自分の「何者でもなさ」を自分に突き刺すことであると、まざまざとこの作品に再確認させられました。

 

 だからこそ、そんな自分を文字通り客観的に見られてしまう終盤のある展開の痛々しさたるや。

 

 それまでの就活の様子をドキュメンタリー風に撮っていただけに「演劇」を使ったこの展開が、演劇性が増していくごとに痛々しさがドライブしていく感じなんかが「意地悪だなぁ〜」と思いました。

 

 ただそこで終わったらただの後味悪い作品なんですが、ここからちょっと背中を押してくれるようなラストになってる部分がよかったですね。

 

 作中で就活うまくいった組はというと、「大切な何か」を持っている人なんです。

 何かを諦めながら、それでも自分が一番「大切だと思うモノ」と繋がっていようとして自分の道を選んだ人たち。だからこそ他人にどう思われようが自分の価値を見失わずに進めるし、他人に対しても同じ眼差しで見ることができたわけですね。

 

 そこに照れずに向き合って自分を見つめたことで、文字通り「世界が開けていく」ラストショットは本当に感動しました。

 

 

 ここまで誉めといてなんですが、あえて言うと前半はもうちょっとテンポ良くできたんじゃないかとか、拓人が割と最初からちょっと嫌なヤツ感出てて、しかも受け身なキャラなため感情移入しづらくて勿体無いなぁとか思いました。

 

 個人的には試験に遅刻しそうになってめっちゃ急いで走っていく理香と、終盤、理香が「そうでもしないと立ってられないからぁ、、、」と泣き崩れるシーンにグッときました(ただの二階堂ふみファン)

 

 

 わかりやすく面白い作品ではないですし、これでもか!という程身につまされるシーンがてんこ盛りで居心地が悪い感触もありますが、非常に普遍的な、おそらく誰しもが経験したことのある話だと思いました。

 中田ヤスタカさんと米津玄師さんの音楽も良いですし、劇場に来てしまった就活生の「うわぁ、、つらぁ」という声も聞けるので、是非映画館でご鑑賞ください!

 

 

原作も面白そうですね

何者 (新潮文庫)

外伝的な短編集。気になる、、、

何様

 

観たことないんですが気になる、、、

就職戦線異状なし [VHS]

『ヤング≒アダルト』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

ヤング≒アダルト』(2012)

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上映時間 90分

監督 ジェイソン・ライトマン 脚本 ディアブロ・コーディ

「JUNO ジュノ」の監督ジェイソン・ライトマン&脚本家ディアブロ・コーディのコンビが、主演にアカデミー賞女優シャーリーズ・セロンを迎え、再タッグを組んだコメディドラマ。児童小説家のメイビスは、夫と離婚後すぐに故郷ミネソタに帰ってくる。そこで、かつての恋人バディに再会し復縁しようとするが、バディにはすでに妻子がいて……。共演は「ウォッチメン」のパトリック・ウィルソン。(以上、映画.comより)

 

 

予告編

youtu.be

 

 

 高飛車勘違い女のイタすぎる等身大コメディ

 

 

 MADMAXでのフュリオサが記憶に新しいシャーリーズセロン主演のコメディ映画。

 「JUNO」「マイレージ、マイライフ」など、毎回良作を作っているジェイソンライトマン監督作品の中でも、本作は僕が生涯ベスト級に好きな作品でして、めちゃくちゃ落ち込んだ時に見返しては号泣、という作品であります。(個人的すぎる文章)

 

 

 ジェイソンライトマン監督といえば、長編デビュー作「サンキュー・スモーキング」以降、世間的にはあまり良いとされていない境遇の人物を主人公に置いた作品を作ってきています。(「とらわれて夏」「ステイ・コネクテッド」は未見です、、、)

 

 その設定というのはトラジコメディと呼ばれるジャンルと非常に相性がいい。

 要は、「本人が自分の境遇をなんとか打開、もしくは自己正当化しようと四苦八苦している姿を客観的に見て笑う」という構造にしやすい設定です。

 それを客観的な視点をなるべく排し、悲劇的に見せたのが以前ポストした「フォックス・キャッチャー」だったと思います。

 

 

heinoken.hatenablog.com

 

 

 本作の主人公メイビスは、あらすじには「児童小説家」とありますが、実際にはヤングアダルト小説(日本でいうラノベ的なもの)ゴーストライターをしています。

 

 しかもどうやら、自分の華々しい過去や現在の心情を元にして小説を書いているというのが冒頭で示されます。

 

 パッとしない生活、イイ男とも出会えない、おまけに仕事の小説も打ち切られそう。

 そんな中、学生時代に付き合っていた元彼から結婚式の招待状が届き、、、というところから物語が始まります。

 

 元彼との思い出のカセットテープと犬ととびっきりの勝負服をバッグに詰めて故郷に帰るというオープニングシーンなのですがこれが最高でして。

 元彼との思い出の曲を何回も繰り返し聞いてアゲていく感じとか苦笑いしながらも、うわぁやったことある、、、みたいに感じますし、ってか華々しいあの頃を思い出すためだけにその曲を聴くとかやったことないですか!?(笑)

 

 と、同時にそれは「カセットテープ」という過去の産物であり、しかもそっちのほうが現在より美しく動き続けている、という見事なオープニングシーンだったと思います。

 

  コメディ的な演出に編集と劇伴も相俟って、前半はかなりテンポよく進むのでワクワクしながらこのどうしようもない主人公の行動を見守っていけます。

 

 で、故郷に帰ったところでもう1人の主人公とも言える同級生のマット(パットン・オズワルド)と出会います。

 デブでオタクな彼はメイビスとは逆に学生時代いじめられていて、下半身が不自由になっています。マットもまた高校時代の(最悪の)思い出に囚われている人間です。

 

 つまりこの2人は表裏一体の存在として描かれていて、マットからの視点を通じて観客はメイビスのしょうもなさと切実さを理解していくことになります。

 

 酔った勢いで自分と元彼が運命(笑)で繋がっていることを話すメイビスに、マットは元彼が既婚者だからその考えは良くないと、至極真っ当(笑)な意見を言います。で、おそらくメイビス自身も半分それをわかっているからこそマットと打ち解けて行きます。

 その後もメイビスとマットが2人で会話するシーンがあるのですが、メイビスが彼に気を許して話している様子、そしてこの2人の価値観が故郷の町の人間と合わないというのが示されて行きます。たとえそれが元彼であったとしても。

 

 メイビスが元彼のバディ(パトリック・ウィルソン)に再会するシーンで、バディはマットのことを悪びれる様子もなく「あぁ、ゲイのあいつね」みたいに言うのですが、そこでメイビスは2回も「彼はゲイじゃないわよ」と言います。

 

 象徴的に使われる学生時代の思い出の「大人サイダー」をバディが飲まないという行動から、バディは大人になってメイビスはまだ子供のままということが示されるのと同時に、自ら価値観や環境になんの疑問も持たず大人になったバディの無神経さを描いた印象的なシーンだと思います。

 

 

 それが物語的によく表れているのが、バディが奥さんのアマチュアバンドのライブにメイビスを誘うシーンです。

 元彼に誘われたこともあり、学生ノリでバディとテキーラを煽って上機嫌のメイビス(笑)

 いざバンドの演奏が始まると奥さんがバディへの思いを語り、、、というシーンなんですが、いくらなんでもメイビスには酷すぎる仕打ちです。バディも嬉しそうにノリノリで演奏を楽しんでるし(笑)

 

 もちろん本人たちに悪気はないし、むしろメイビスが勝手にショックを受けるシーンなんですがバディ、お前せめてちょっと気まずい感じ出しとけや!!となりました(笑)

 

 そんな調子で、故郷に住んでいる登場人物は、メイビスやマットのように”ある価値観"に適応できなかった人たちの人生"に対して少しだけ無神経であることが描写されます。

 

 両親はメイビスがアルコール中毒かもしれないと相談を持ちかけても「自分の子供に限ってそんなことはないだろう」と相手にしなかったり、悪気はないけれどもメイビスが離婚した時の元夫の話をしたり。

 

 しかし、メイビスはまだ諦めません(笑) バディとの再会で止まっていた執筆も進み、華々しい人生を取り戻そうとしています。

 勘違いっぷりも進み、Macy’s(日本でいうイオン的なスーパー)で「マークジェイコブスはないの??」とか本屋で「サインいる??」とか言って相変わらず調子に乗っています。

 

 そんな状態なので、その後マットとの森での会話で最後通告的に言われる「大人になれよ」という言葉に耳を貸さぬまま、クライマックスに向かいます。

 

 クライマックス、バディ夫妻の子供の命名式に招待されたメイビスですが、これが目も当てられない展開になります。

 

 はっきり言ってメイビスの馬鹿っぷりが極に達するシーンなのですが、そこで明かされるメイビスのある真相を聞くと、やっぱり周囲の人間はちょっと無神経すぎるだろうと。

 

  もちろんメイビスは最低なやつです。自分の人生を肯定するために他人の人生を壊そうとしているダメな人です。

 ですが、彼女が狂ったのにも理由がなくはないなと思います。

 

 だからこそ、その後の惨めすぎるベッドシーンの切実さと、そこで示される「客観的に見たメイビスの過去」にハッとさせられます。(あとこれは余談ですが、シャーリーズセロンのヌーブラが最高です。)

 

 

 そしてラスト、色々あって心身ズタボロのメイビスですが、主人公がストレートに改心はしないというジェイソンライトマン節が効いてて最高のシーンです(笑) 爆笑必至なので、これは是非見て頂きたいシーンですね。

 でも、この懲りない女っぷりが逆に清々しくて、「もうお前はそれでいいよ!そのまま行けよ!」と元気をもらえるシーンでもあります。

 

 「あの時こうしてれば」という後悔や「ちゃんと環境に適応できる大人」になれないことから現在の自分を肯定したくて華々しい思い出を引きずったりすることは、たとえそれが馬鹿げた、子供じみたことだと半分わかっていても、あると思います。

 

  しかしその自覚があればこその成長であり、ラストに写される”あるモノ”が象徴する「ポンコツだけどまだ動ける」というシーンに胸を打たれます。

 

 

 冒頭で書いた通り、本作は僕の生涯ベスト級作品なわけですが、これは当時の自分の状況からメイビスが他人事に思えなくて、ガンガンに感情移入してしまったからなんですね。

 でも、メイビスに多少なりとも共感する部分は誰しもあると思いますし、なにより現実では絶対に関わりたくないような最低の主人公の人生に感動してしまう、というのはフィクションならではの素晴らしい魅力だと思います。

 

 ポスターとか予告編から想像するポップなコメディではないですし、主人公のダメさっぷりに呆れる人もいるかと思いますが、笑えて、泣けて、場合によっては胸に刺さりまくる素晴らしい作品だと思います!

 

 是非、ご鑑賞ください!オススメです!!

 

 

エレン・ペイジが最高!

JUNO/ジュノ (特別編) [DVD]

メイビスとマットの関係から連想しました。

ゴーストワールド [DVD]

 

 

 

 

『君の名は。』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

 『君の名は。』(2016)

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上映時間 107分

監督・脚本 新海誠

雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」など、男女の心の機微を美しい風景描写とともに繊細に描き出すアニメーション作品を手がけ、国内外から注目を集める新海誠監督が、前作「言の葉の庭」から3年ぶりに送り出すオリジナル長編アニメ。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」で知られ、新海監督とはCM作品でタッグを組んだこともある田中将賀がキャラクターデザインを担当し、「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」などスタジオジブリ作品に数多く携わってきた安藤雅司が作画監督を務める。1000年ぶりという彗星の接近が1カ月後に迫ったある日、山深い田舎町に暮らす女子高生の宮水三葉は、自分が東京の男子高校生になった夢を見る。日頃から田舎の小さな町に窮屈し、都会に憧れを抱いていた三葉は、夢の中で都会を満喫する。一方、東京で暮らす男子高校生の立花瀧も、行ったこともない山奥の町で自分が女子高生になっている夢を見ていた。声の出演は神木隆之介上白石萌音。(以上、映画.comより)

 

 

 予告編

youtu.be

 

 

 

 

 「俺がお前で、お前が俺で!?」から始まる青春ぶっ飛びムービー!!

 

 

 公開から3週間足らずで興行収入62億円の特大ヒット、もはや社会現象化しつつある本作、「流行り物には乗っとけ!」精神で見に行ってまいりました。

 

 平日の夕方でしたが劇場は超満員!ほとんどが制服を着た中高生でした。学校帰りに友達と映画とかすごい羨ましい、、、(笑)

 隣の男女5人組とか、すごい若々しい反応しててよかったですね。終わった後、女子が泣いてて、それを男子がおちょくりながら出て行ったのですが、このあとファストフード店に行ったり、ゲーセンで遊んだりするんだろうなー青春だなー(勝手な妄想)と、ひとり喫煙所へ向かいました(笑)

 

 

 さて、本作の感想の前に僕がこれまでの新海誠作品をどう感じたかをさらっと書かせてください。とはいえ、「ほしのこえ」「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」しか見れていないのですが、、、(汗) その程度の知識しか無い野郎の戯言と思って読んでください(予防線張りまくり) あと、新海ファンの方は不快に思うかもしれないので、読むのをやめてもらって結構です。。。

 

 

 

 

 一言で言うと「あ、肌に合わねぇ(笑)」です。

 初めて観たのは「秒速」なんですが、どうもノれなくでですね。なんか主人公の貴樹くんの一人相撲を延々見せられた結果、勝手に解決してワンモアタイムワンモアチャンスみたいな。

 それでも「桜花抄」は「小学生が健気だ、、、」と思って感動しましたし、「コスモナウト」は貴樹にイライラしながらも主人公の女の子が可愛そうだなぁと思いました。

 なので最後のエピソードで完全に冷めてしまった、というか貴樹にまったく感情移入できず、「勝手に自分に酔ってろや!!」と思ってしまいました。

 目の前の自分を想ってくれる人も大事にできず、昔の思い出に振り回された挙句、「色々あったけど綺麗な思い出にして、君と僕は違う道を歩むんだね」みたいに美化するって僕は気持ち悪いなと思ってしまったわけです。

 

  ただ、背景の素晴らしさは言わずもがなですし、脚本、劇伴、新海節ポエムが良い感じのバランスで作品としては間違いなく新海誠最高傑作だと思います。僕と合わないだけで。。。

 

 で、「言の葉の庭」「ほしのこえ」という順番で観たのですが、それぞれアイデアとか背景は相変わらずすごいのですが、ちょっと印象は弱かったです。

 特に「言の葉の庭」は女性像が男のファンタジーすぎる部分が目立ってしまって、その一点で強引に話をまとめちゃった感があって話の運びとしてもどうかなと。

 まぁ、女性像美化されすぎ問題はこの3作に共通してあるので、新海監督の作家性の部分だと思うのですが。

 

 

 と、まぁまとめると「主人公が内省的になった結果、自己憐憫からの自己陶酔的な方向にいってしまいう所が肌に合わないなぁ」というのが僕の新海作品への感想でした。

 

 

 では、「君の名は。」は肌に合ったのか!?というところで、本作の話にいきたいと思います。(前置きが長い)

 

 

 

 まずお話としては面白かったです!男女逆転ものといえば大林監督の名作「転校生」ですし、セカイ系といわれるような展開もエンターテイメント的な見せ場が作れるし、あと一つこれまた青春SFものにはありがちな要素があるんですが、これのおかげで謎解き要素も入って楽しかったです。

 なによりこれだけの要素を107分にうまくまとめた新海さんスゲェと思いました。

 

 本作は僕が観た3作と比べて圧倒的にスピード感が違うなと思いました。多少強引ではあると思いましたがグイグイ物語を進めていく疾走感でラストまで突っ走ってくれるのは、新海作品に対して飲み込み辛さを感じていた僕でも楽しめる作りになっていました。

 前半部なんかはドタバタコメディをそのスピード感で見せてくれたので、結構普通に楽しみました!

  

 特にRADWIMPSの主題歌がかかる、入れ替わった日常で主人公の瀧くん(神木隆之介)と三葉(上白石萌音)が心を通わせていくシーンは曲の雰囲気とスピード感がマッチしていてアガりました(笑)

 

 ただこのシーンもったいないのは、お互いの生活にルールを設けるというのをナレーションで説明したところですかね。ナレーションを入れる事で良くも悪くもアニメ的すぎるのが気になって、せっかくの観客が物語に巻き込まれるようなスピーディーな見せ方の効果を削いでいる気がしました。

 

 あとこれは好みの問題かもしれませんが、「このシーンでタイトル出してたらなぁ。テンションブチ上がるのになぁ。」とか思いました(笑)

 冒頭の超アニメ的オープニングシーン全部カットでよかったんじゃないかと(笑)別に物語を語る重要なシーンでもなかったと感じたのですが。気づかなかっただけかな。。。

 

 

 で、そこからはある仕掛けによって物語のトーンがガラッと変わるのですが、その展開自体はおもしろいんですよ。男女入れ替わりものにそれ足しちゃうか!と。

 

 ただ、色んな楽しい要素ぶち込んだ結果、全体の脚本の荒さが目立ってしまった印象です。

 あるSF的な要素の伏線もしくはミスリードで時系列がややこしくなるのですが、これが結構序盤からあります。

 

 僕はアバンタイトルから前半部にかけてずっと引っかかって、「あれ、これどういうことだろう」と考えて観ていたため、楽しかった前半部も若干物語と距離を置いた形で見てしまい、感情移入できなかったです。

 そのため「入れ替わってコミュニケートしてるうちにだんだん好きになっていく」という部分にイマイチ乗り切れず。

 

 これは後にわかる真相のための伏線&ミスリードを長く引っ張りすぎたせいだと思いました。もしくはストーリーテリングが単に下手かのどちらかだと思います。ちょっと情報を出す順番をわかりやすく整理するだけで解消される問題だと思います。

 

 で、真相がわかってからも大事なシーンで設定との矛盾があったりして上手くない。

 

 これらの若干の詰めの甘さがノイズになって、瀧と三葉の物語に集中できなくなってくるわけです。

 要は感情移入のためのシーンにノイズがあって感情移入できない、故にそんなに感動できない、もっと言えば泣けない(笑)

 これは物語上、結構な問題だと思いました。

 

 それこそ先述したアニメ的オープニングシーンを削って、前半部に心が通じあっていく過程を描くなり、「なぜ入れ替わる相手が瀧でないとダメだったか」ということを描けばもっとロマンチックになったのでは、と感じました。

 

 あと、結末ですが僕はやっぱり肌に合いませんでした。震災を想起するような描写が入っているのに、あの描き方では「忘れよう」という風に見えました。

 「色々大変なことがあったけど二人の想いは,,,」みたいなのはセカイ系として納得できるものですが、やっぱり災害が恋愛の背景になった印象だし、その他諸々の主人公たちが抱えていた想いが全て、恋愛に矮小化されてしまった気がしました。

 

 あと、やっぱり年上女性に対するファンタジーが激しすぎるという女性像美化されすぎ問題が気になったり、RADWIMPSの曲も説明過多&くどいため胃もたれ気味だったり、諸々肌に合いませんでした。(笑)

 

 

 色々不満点は挙げましたが、背景は相変わらず素晴らしいですし、なにより主人公が自己陶酔に陥らず、自分の手で未来に掴もうと能動的に行動するというのは、すごく好きでした!

 ちょっと実験的な映像が挟まったり、コメディ演出があったり新海さんの観客に向けた姿勢はよかったなと思います。

 

 

 僕が元々新海作品との相性が悪いというのもありますが、それでも前半部は結構楽しんだし、その疾走感にはノセられたので見てよかったとは思います!!

 

 大ヒット作品ですし、もしかしたらシンゴジラ超えもあるかもしれない話題作ですので、熱が冷めないうちに是非劇場で観てください!!

 

 

やっぱりこれが突出した出来だと思います。

秒速5センチメートル [Blu-ray]

小説版読んだらもっとわかるみたいですね。

小説 君の名は。 (角川文庫)

大林監督自身による「転校生」のリメイク。

本家よりこっちのほうが好きだったりします(笑)

本作と見比べると面白いかも!

転校生 ?さよなら あなた?

 

 

 

『フォックスキャッチャー』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

フォックスキャッチャー』(2015)

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上映時間 135分

監督 ベネットミラー

マネーボール」「カポーティ」のベネット・ミラー監督が、1996年にアメリカで起こったデュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンによるレスリング五輪金メダリスト射殺事件を映画化し、2014年・第67回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したサスペンスドラマ。ロサンゼルスオリンピックで金メダルを獲得したレスリング選手マーク・シュルツは、デュポン財閥の御曹司ジョンから、ソウルオリンピックでのメダル獲得を目指すレスリングチーム「フォックスキャッチャー」に誘われる。同じく金メダリストの兄デイブへのコンプレックスから抜けだすことを願っていたマークは、最高のトレーニング環境を用意してくれるという絶好のチャンスに飛びつくが、デュポンのエキセントリックな行動に振り回されるようになっていく。やがてデイブもチームに加入することになり、そこから3人の運命は思わぬ方向へと転がっていく。「40歳の童貞男」のスティーブ・カレルがコメディ演技を封印し、心に闇を抱える財閥御曹司役をシリアスに怪演。メダリスト兄弟の兄をマーク・ラファロ、弟をチャニング・テイタムが演じた。(以上、映画.comより)

 

予告編

www.youtube.com

 

 

 

 

 「正しさ」だけで生きていけない人たちの悲喜劇

 

 

 

 実際の事件をベースにしている本作。実際のジョン・デュポンの人物像はちょっと違っていたり、マーク・シュルツ本人も描かれていることに対して色々思うところがあったようですが、本当によく出来た映画でした。

 

 まずこの映画で特筆すべきなのは、3人の主演の素晴らしさです。

 3人とも出てきた瞬間にどういう人物かわかるという佇まいの説得力!

 マーク・シュルツを演じるチャニング・テイタムには驚きました。肉体派バッキバキ超セクシーみたいなイメージの彼が、根暗マッチョを演じられるとは、、、(失礼な文章)

 

 冒頭のシーン、マークはアマチュアレスリングの大会で優勝した経験を生かして、講演会などで生計を立てているようなのですがどうも上手く喋れていない様子や、その後、車の中でモソモソとハンバーガーを食べるシーンなどいわゆる「コミュ障」っぽい佇まい。

 一目で「根暗」とわかる演技と演出。

 

 続いて、マークのお兄さんのデイブ・シュルツ。

 マークとは対照的に人当たりも良く、レスリングも強い、しかもかなり家族思いのお父さん。

 言ってみればデイブは世間的に言う「正しい人」です。

 これも出てきた瞬間に喋り方や表情の豊かさで好感が持てる人を、マークラファロが好演しています。

 

 しかも、レスリングにおいてもデイブはマークより上手であることがぶつかり稽古の様子だけでわかります。

 冒頭だけでもわかるように、セリフによる説明は一切せず映像的に説明しているのが本作の巧みなところだと思います。

 

 

 まぁそんなわけで、マークは「正しい人」である兄と自分を比較して鬱憤を溜め込み、孤独感を感じているわけです。

 

 

 そしてマークと同じく孤独を抱えているもう1人の主人公、ジョン・デュポンを演じるスティーブ・カレルが素晴らしい!

 一言で言ってしまえば「孤独な支配者」なのですが、支配者っぽいオーラが微塵もありません(笑)

 登場の仕方も引きのショットで画面の端からヒョコヒョコ歩いてくる感じですし、なんとも弱そうな雰囲気で演出されています。

 ちなみにこのジョンのマザコン設定といい、鳥類学者といい「サイコ」のノーマンベイツっぽい感じもあった気がします。

 

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 このジョン・デュポン。母親にはレスリングが好きなことを認めてもらえず、愛情も受けていない、しかも幼い頃に母親が自分の友達にお金を渡していたのを見てしまった。

 要するにジョンは、母親からの承認や愛を得ず、「金で買った関係」の友達しかいないという孤独を抱えている人間です。

 

 そんなジョンが自分のレスリングチームにマークを"雇う"ところから物語が始まり、2人でレスリングでの成功を目指す前半部。

 

 なんとか成功を収めたいマークは一世一代のチャンスとばかりにジョンに尽くします。

 ジョンを讃えるスピーチを必死に練習したり、ジョンの好きな鳥の本読んだり、ジョンの家系を讃えるビデオ見たり、明らかに同性愛的なメタファーのレッスンを嫌々受けたり、、、

 

 とにかく健気なマークシュルツくんです(笑)

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 2人で記念撮影☆(死んだ目)

 

 それでも「自分自身を認めてくれた」という一点でジョンのために頑張るマーク。徐々にジョンに対して信頼を置くようになります。

 一方のジョンは相変わらず「下品なレスリングより乗馬がいい」という母親に認めてもらえず、"金で買った"マークとの「友達ごっこ」だけでは承認欲求を満たせなくなります。

 

 そして、ついに「自分の持っていないものを全て持っている人=金以外全て持っている人」のデイブをコーチとして自分のチームに呼び寄せます。

 

 

 なんとも辛いのが、マークにしてみれば「自分自身を認めてくれた」と思っていた相手が、結局「正しい人」の兄のほうへ行ってしまったんですよね。

 この裏切られた感。しかもデイブは冒頭の時点でジョンのチームに入るのを嫌がってたんですよ!でも「給料が良くて家族のためにも」と結局チームに来て。

 「デイブ、お前が来たらマークが傷つくのわかんねぇのかよ馬鹿野郎!!」と叫びたくなったのですが、グッとこらえて溜め息まじりに頭掻きむしってました(笑)

  

 

 「結局ジョンも兄貴のとこ行くのかよ!」と、拗ねるマークを心配してデイブがフォローするんですがこれも腹立つ(笑)

 

 慰められてさらに惨めな思いしたこと、あります(笑)

「慰めてくれんな!アンタに慰められるのが一番辛いんだよ!」と思ったこと、あります(笑)

 ここは、留年経験者の僕としては感情移入しまくりのシーンでした(笑)非常に理不尽な怒りと自覚はしていますが、この気持ちはよくわかります(笑)励ましてくれた皆さん、すいません(笑)

※イメージです

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 そんなこんなでマークはデイブの助けを得ながら大会に出場するも敗退。ジョンのチームから追い出されてしまいます。

 で、マークの代わりにデイブと「友達ごっこ」をしようとするジョンですが「正しい人」であるデイブはそんなことには乗りません。

 

 あくまで「雇い主」と「雇われコーチ」という関係。それ以上でも以下でもありません。

 

 終盤、休日にジョンが一人でデイブの家に訪ねて行くシーンがあるのですが、ここも本当に寂しいシーンになっています。

 デイブとしては休日なので「今日は休日ですよね?家族サービスの日だったと思うんですが、、、」と迷惑そうな顔。

 それを受けて「あ、そうだよね。ごめんごめん。」とトボトボ帰っていくジョン。

 

 劇中では何も語られていませんが、ジョンはデイブの家族と遊ぼうとしてたんじゃないか、と思わせる様子でした。

 

 

 もちろん、デイブは何かひどいことを言ったわけではありません。契約通りのことを言ったまでです。でも、先述のマークしかり「正しさ」に押しつぶされてしまう人の痛みを、「正しい」が故に気づかないことってあるよなぁと。

 

 そしてここでわかるのは、デイブこそ"金で買った"友達だったということです。

 

 母親からの承認、レスリングでの成功を得られず、唯一の友達のような人を失い、結局孤独になってしまったジョン。

 

 この後、悲惨な事件が起きてしまうのですがその素っ気無さたるや。

 そんなことではジョンの孤独はどうにもならなかったということなのかなぁと感じました。

 

 

 なんかすごい暗い映画っぽく書いてしまいましたが、はっきり言ってマークとジョンのシーンは笑っちゃうシーンもあります!

 というか撮り方や演出によってはほとんどコメディにできるような映画です。

 でもその二人の悲劇性を強調する作りになっているのが本作のポイントかなぁと思います。

 それでいてラストは、なんとか自分自身を肯定できるようなマークのシーンで終わるので、後味としてもほんのり前向きな映画です。

 

 

 ぐうの音も出ないほどの「正しさ」に反抗したくなること、膨れ上がった承認欲求を持て余してどうにもならなくなったこと、その結果理不尽な怒りを他人にぶつけたくなったこと、無いですかね?僕は他人事じゃ無いなと思いました。

 

 

 非常に暗い映画ですし、派手な見せ場もないので退屈だと感じる人も多いと思いますが、僕にとっては大切な一本になってしまった映画でした!

 

 

 軽い気持ちでオススメできませんが傑作だと思います!

 興味があれば是非!

 

 

 

これもよかったベネットミラー監督

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スティーブ・カレルといえばですね。

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チャニングテイタムが衝撃のチョイ役です(笑)

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