チャンタの映画感想ブログ

新作・旧作映画のレビューブログです。ネタバレはできるだけ避けています。

『ヒメアノ〜ル』〜映画感想文〜

 ※この記事はちょっとだけネタバレしています。

 

 

 ヒメアノ〜ル』(2016) 

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 上映時間99分

 監督・脚本 吉田恵輔

行け!稲中卓球部」「ヒミズ」の古谷実による同名コミックを、「V6」の森田剛主演で実写映画化。森田が、次々と殺人を重ねていく主人公の快楽殺人犯・森田正一役を演じ、「純喫茶磯辺」「銀の匙 Silver Spoon」などを手がけた吉田恵輔監督がメガホンをとった。平凡な毎日に焦りを感じながら、ビルの清掃のパートタイマーとして働いている岡田は、同僚の安藤から思いを寄せるカフェの店員ユカとの恋のキューピッド役を頼まれる。ユカが働くカフェで、高校時代に過酷ないじめに遭っていた同級生の森田正一と再会する岡田だったが、ユカから彼女が森田にストーキングをされている事実を知らされる。岡田役を濱田岳、ユカ役を佐津川愛美、安藤役をムロツヨシがそれぞれ演じる。 (以上、映画.comより)  

 

予告編

www.youtube.com

 

 

 お母さぁ〜ん、麦茶持ってきて〜!あと、、、

 

 

 

 

  電話の相手は確認してね。

 

 

 吉田恵輔監督の最新作ということで観に行ってまいりました。やっぱりV6効果なのか、割と若めな女性も多くて、その女性たちが所々「ビクッ!!!!」っと驚いているのもほんとによかったです。(ムロツヨシの眼で)

 

 吉田恵輔さんといえば僕は「ばしゃ馬さんとビッグマウス」が生涯ベスト級に大事な作品でして、何回観ても胸が締め付けられるような気持ちになって泣いてしまう作品でして、主演の麻生久美子さんが大好きな女優さんの一人になってしまったぐらいでして、、、(以下略)

 

 他にも「机のなかみ」や「純喫茶磯辺」など、基本はコメディ的な作品が多く、その中でも「さんかく」は吉田恵輔コメディの大傑作だと思います。

 

 以上の作品を並べてみてもわかるのですが、吉田監督は「痛々しいけど可笑しいコメディ」の中に、「今まで想像もしたり目を向けようとしなかった、しかしそこに厳然とある現実」を展開することで、それまでコメディ的であった話がガラッとひっくり返るというお話をずっと描いている監督だと思います。

 

 で、本作はまさにそれが全面に、より鋭く、文字どおり牙を向いている作品でした。

 

 

 

 まずは序盤、「キモい先輩の好きな人と恋愛関係になっちゃった!」的なラブコメ展開になっていくんですが、ここの役者さんたちのコメディ演技が素晴らしいです。

 

 主人公の岡田くん(濱田岳)のダメな童貞感と、先輩に気を使ってる後輩感がハンパない。目の泳ぎ方とか、先輩の無茶な要求に対しての「マジすかぁ、、、」とか、超リアル(笑)あるある(笑)

 

 一方その先輩の安藤さん(ムロツヨシ)の佇まいも良いです。ほとんど無表情で、じっとり話す感じが非常にアブないやつ(笑)です。片思い中のユカちゃんをデートに誘うくだりの不自然さとか、「あぁ〜、気持ち悪い上に最悪だこいつ(笑)」という感じで超笑えます。

 

 で、その安藤さんの片思い相手のユカちゃん(佐津川愛美)の尋常じゃないエロ可愛さ!!

 しかも「エロでござい!」的なものじゃなく、清純な感じで小動物的な可愛さを遺憾なく発揮するんだけど、「付き合ってるから色々なこと(エッチなのもオッケーだよ♡)したいなぁ〜」という清楚系ビッ◯の権化(褒めてます)。

 正直なところ、告白のシーンや、居酒屋デートからのセックスに至るまでのシーンで僕は完全にユキちゃんに惚れていました(真顔)

 

 とりあえず天使系ビッ◯の告白シーンの画像、置いときますね。

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 で、このシーンは本当に可笑しくて、微笑ましい二人のやりとりにニヤニヤしつつ笑えるという細かい描写が続いてからの「あ、後ろに、、、」からの爆笑シーンになっていて、久しぶりに映画館で声を出して笑いました。 

 

 ムロツヨシさんの絶叫の画像、置いときますね。 

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 ここまでは超可笑しいラブコメ映画なんですが、ちょこちょこ主演の森田剛さん演じる森田が絡んできまして。

 この映画で特筆すべきは、この森田の圧倒的な存在感です。

 森田と岡田の会話シーンの違和感、街の清掃のおじさんと森田の会話の異常さ、そしてその佇まいに至るまで、「何か人間として大切なものが欠落している感」があって、森田剛さんまでそういう人なんじゃないかと思えるレベルでした。

 

 その森田の存在感と安藤さんの異常さが、前半の緊張感を良い感じに出していました。

 あと、この前半部は比較的カメラが安定した撮影で、衣装から小道具まで画面が明るいポップな色をしているのですが、森田のシーンだけカメラがグラグラ揺れ、色も暗い感じになっていて、非常に計算されている画面作りでした。

 

 

 そして前半部クライマックス、いよいよ岡田とユキちゃんが幸せの絶頂!(ダブルミーニング)のシーン。

 画面が二人の部屋を映し、エクスタシィィィ!!な声(シングルミーニング)が響くのに被せて、不穏な音楽と部屋を見上げる森田のシルエットが映り、タイトル「HIME  ANOLE」映倫R15の文字が出てくる完璧なタイトルクレジット。

 

 「これまでのラブコメ展開はアバンタイトルで、ここから凄惨なことになっていきますよ」と言わんばかりのこのタイトルクレジットには鳥肌が立ちました。

 

 そして、これを境に日常シーンもカメラがグラグラになり、どんどん画面全体が暗い画作りになっていきます。

 

 そこから展開される森田の凄惨な暴力が、直接のグロ描写は無いものの本当に「生理的に嫌」でして。包丁で細かく刺すとか、逆にゆっくり刺しこむとか、銃の弾着の嫌な感じとか、レイプ描写の嫌さとか、、、

 

 なんといってもタイトル直後の殺人シーンの嫌な感じがハンパじゃ無いです。

 高校時代、森田と一緒にイジメられていた和草くん(駒木根隆介)とその彼女の久美子(山田真歩)が殺されるのですが、死に様が本当に悲惨。頭をカチ割られて体が痙攣する感じとか、徐々に殺されていく久美子の失禁とか。

 

 しかも、そのシーンの森田が久美子を殺すショットと、岡田とユキのセックスのショットを、イマジナリーラインを合わせて並列させる編集の悪趣味な感じ。(絶賛してます)

 こうやって並べられると、セックスという行為の持つある種の暴力性とか、岡田とユキの関係の不安定さとか意識せざるを得なくなって非常に嫌な気持ちに(絶賛してm)。

 そしてこのシーンこそ、前述した吉田恵輔の作家性が牙を向いた瞬間であるわけです。

 「あるところでカップルが幸せに浸っている頃、同時に目を背けたい現実が誰かを殺している、そしてその現実は、実はすぐ近くにある。」そういうシーンだと思いました。

 

殺されたカップルのラッパー時代の画像置いときますね。(余計な情報)

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 ちなみにこの後に続く、事後の岡田とユキの会話でユキの元彼人数が発覚して岡田がふてくされるシーンや、童貞をこじらせた岡田が"あるモノ"を購入し、ユキにドン引かれた挙句、ユキは経験済みだったシーンは可笑しいのですが、やはり「男側の勝手な幻想に対して身も蓋もない現実が現れる」というシーンに見えてくるという上手い脚本。

 

 

 そして終盤、ある人物が森田の暴力を受けたのがきっかけで、森田との過去を語りだす岡田。森田の行動の原因にひとまず答えが出て、いよいよ森田と対峙するクライマックス。

 岡田が森田を説得するのですが、まさかの森田の返答に「理解できたつもりが実は全く理解できていなかった」という逆転構造が再び浮き上がります。

 

 そんな「理解不能」の森田に振り回されながらも、最後の最後で森田が見せる「人間らしさ」とあまりにも哀しい「大切な記憶」に、感動というか、胸が締め付けられるような気持ちになりました。

 

 

 もちろん、暴力描写もありますし心が曇ったまま映画が終わるので人によってはただ不快な映画になってしまうかもしれませんが、前半は思いっきり笑って、後半は嫌な気持ちになり、観終わってから「人との繋がり」や「他者への想像力」を考え直すことができる作品だと思いました。

 

 

 他にも細かい伏線(冒頭の足跡ともう一度出てくる足跡とか、森田の銃を向けて放つ一言とか)のこととか書きたいのですが、いつもの字数より大幅に多くなっているのでやめます(まとめ下手)

 

 前回ポストした「アイアムアヒーロー」に続き(アイアムアヒーローの記事はこちらです)、こういう邦画の素晴らしい作品がシネコンで観れるという事実と、いつもの記事より字数が多いということが、この映画に対して僕が超思い入れてしまった証拠なので、オススメです!と言わねばなりません!(強引)

 

  オススメです!!是非映画館で!!

 

 

 観終わった帰り道には是非この曲を。

youtu.be

 

 

吉田恵輔監督ならこれらも是非。

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