チャンタの映画感想ブログ

新作・旧作映画のレビューブログです。ネタバレはできるだけ避けています。

『何者』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています。

 

 

 『何者』(2016)

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 上映時間 97分

 監督・脚本 三浦大輔

桐島、部活やめるってよ」の原作者として知られる朝井リョウが、平成生まれの作家として初めて直木賞を受賞した「何者」を映画化。就職活動を通して自分が「何者」であるかを模索する若者たちの姿を、佐藤健有村架純二階堂ふみ菅田将暉岡田将生山田孝之という豪華キャストの共演で描いた。監督・脚本は、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「愛の渦」といった映画でも高い評価を得ている演劇界の鬼才・三浦大輔。演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人。何も考えていないように見えて、着実に内定に近づいていく光太郎。光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら、焦りを隠せない隆良。22歳・大学生の5人は、それぞれの思いや悩みをSNSに吐き出しながら就職活動に励むが、人間関係は徐々に変化していく。(以上、映画.comより)

 

予告編

youtu.be

 

 

 「何者」でもないやつらの就活ミステリー劇場

 

 

 「桐島、部活やめるってよ」そしてハロオタの僕としては、Juice=Juiceが主演を務めたドラマ「武道館」の朝井リョウ原作の本作。

 誠に申し訳ないのですが、朝井リョウさんの本は全く読んだことがなく、さらには三浦大輔監督作品も観たことがありません、、、

 なので「あー今っぽい題材で若手俳優集めた映画かぁ」と完全にナメておりました(失礼な態度)

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 結論から言うと、めちゃくちゃ面白かったしすげー痛かったです。

 

 周到に張られた伏線にもまんまと引っかかったし、演出面でも序盤と終盤で照明の使い方を変えていたり、なにより終盤の舞台を使った演出の見事さに圧倒されたり。とにかく細部まで丁寧に作られている印象でした。

 

 キャスティングも素晴らしくて、おそらく役者本人のイメージ込みのキャスティングなのですが、全員が役にハマっていて実際にそういう人にしか見えないという。

 菅田将暉さんのちょっと軽いけどイイやつな感じとか、有村架純さんの真面目優等生のイイ子な感じとか、岡田将生さんの「俺はちょっと違うんだよねぇ(笑)」感とか(褒めてます)、二階堂ふみの「意識高い大人な私」感とか(褒めてます)、とにかくバッチリで。そしてあの佐藤健さんの「普通のやつ」感。めっちゃイケメンなのにあの凡人感。驚きました。前述した鑑賞前の自分の失礼な態度に腹が立ちますね。。。

 

 

 

 で、感想を一言で言えば「観ていて気まずいからやめてくれ!!」と叫びたくなるような映画でした。

 

 いわゆる「就職活動」的な合同説明会の様子やグループディスカッション、そして面接試験での「一分間で自分を表現してください」という面接官の質問とそれに答える就活生。その雰囲気のリアリティはすごく出ていたと思います。

 

 それこそ就活最前線に立っていた友人なんかは「これはある意味ホラーだった」というほどのもので、そんなに就活に熱心に力を入れていたわけでは無い僕でさえ、「え、あいつが内定!?」っていうよく考えたら失礼な驚きとか、「黙って受けたら知り合いがいて、しかも自分は落ちて相手は受かった」みたいなことは身に覚えがあって、観ていてすごく気まずい気分になってくるという。

 

 まぁ友達の少ない僕としては、序盤、理香(二階堂ふみ)の部屋を「就活対策本部」として、みんなで集まってエントリーシート書いてる様子とかご飯食べてる様子を見て「なんだこいつら、リア充やんけ!」と思っていたわけですよ。

 めっちゃ羨ましい学生生活感

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 でも同時に、分析家でもある拓人(佐藤健)が冷静にちょっと皮肉っぽく何かを言うとちょっと空気がピリつく感じとかそれだけでちょっとサスペンスフルでよかったですね。

  こういう表面上だけのコミュニケーションというのは「桐島〜」にもあった描写なので、朝井リョウさんの得意とする部分なんですかね。

 

 そんな感じで登場人物たちが見事に就活地獄にハマっていく様子もいたたまれなくなってくるんですが、なにより本作の「痛い」部分は現代的なディスコミュニケーションとそれによって肥大した承認欲求の取り扱い方だと思うんですね。

 

 

 SNSによって情報の入手が手軽になったり「繋がりを作る」ことが簡単になってすごく便利になった反面、その情報によって自分を他人と比較することも簡単になった時代。ましてやSNSを使っていると、自分が他人からどう見られているか気になりやすくもなりました。

 

 そんな中で、自分に拠り所が無い時に「自分より価値がありそうな人」を見てしまうと、自分の価値がわからなくなることは多かれ少なかれあると思います。

 

 「自分は何者でも無い」というコンプレックス、膨れ上がった自意識から「自分より価値がありそうな人」に対して批評的な態度をとったりしてしまう。そのことで、視野が狭くなって他人への想像力が持てなくなる。

  これこそが決定的にコミュニケーション不全にさせることであり、自分の「何者でもなさ」を自分に突き刺すことであると、まざまざとこの作品に再確認させられました。

 

 だからこそ、そんな自分を文字通り客観的に見られてしまう終盤のある展開の痛々しさたるや。

 

 それまでの就活の様子をドキュメンタリー風に撮っていただけに「演劇」を使ったこの展開が、演劇性が増していくごとに痛々しさがドライブしていく感じなんかが「意地悪だなぁ〜」と思いました。

 

 ただそこで終わったらただの後味悪い作品なんですが、ここからちょっと背中を押してくれるようなラストになってる部分がよかったですね。

 

 作中で就活うまくいった組はというと、「大切な何か」を持っている人なんです。

 何かを諦めながら、それでも自分が一番「大切だと思うモノ」と繋がっていようとして自分の道を選んだ人たち。だからこそ他人にどう思われようが自分の価値を見失わずに進めるし、他人に対しても同じ眼差しで見ることができたわけですね。

 

 そこに照れずに向き合って自分を見つめたことで、文字通り「世界が開けていく」ラストショットは本当に感動しました。

 

 

 ここまで誉めといてなんですが、あえて言うと前半はもうちょっとテンポ良くできたんじゃないかとか、拓人が割と最初からちょっと嫌なヤツ感出てて、しかも受け身なキャラなため感情移入しづらくて勿体無いなぁとか思いました。

 

 個人的には試験に遅刻しそうになってめっちゃ急いで走っていく理香と、終盤、理香が「そうでもしないと立ってられないからぁ、、、」と泣き崩れるシーンにグッときました(ただの二階堂ふみファン)

 

 

 わかりやすく面白い作品ではないですし、これでもか!という程身につまされるシーンがてんこ盛りで居心地が悪い感触もありますが、非常に普遍的な、おそらく誰しもが経験したことのある話だと思いました。

 中田ヤスタカさんと米津玄師さんの音楽も良いですし、劇場に来てしまった就活生の「うわぁ、、つらぁ」という声も聞けるので、是非映画館でご鑑賞ください!

 

 

原作も面白そうですね

何者 (新潮文庫)

外伝的な短編集。気になる、、、

何様

 

観たことないんですが気になる、、、

就職戦線異状なし [VHS]