『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』〜映画感想文〜
※この記事はちょっとだけネタバレしています
『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』(2020)
上映時間 135分
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
「レディ・バード」のグレタ・ガーウィグ監督とシアーシャ・ローナンが再タッグを組み、ルイザ・メイ・オルコットの名作小説「若草物語」を新たな視点で映画化。南北戦争時代に力強く生きるマーチ家の4姉妹が織りなす物語を、作家志望の次女ジョーを主人公にみずみずしいタッチで描く。しっかり者の長女メグ、活発で信念を曲げない次女ジョー、内気で繊細な三女ベス、人懐っこく頑固な末っ子エイミー。女性が表現者として成功することが難しい時代に、ジョーは作家になる夢を一途に追い続けていた。性別によって決められてしまう人生を乗り越えようと、思いを寄せる幼なじみローリーからのプロポーズにも応じず、自分が信じる道を突き進むジョーだったが……。幼なじみローリーを「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメ、長女メグを「美女と野獣」のエマ・ワトソン、末っ子エイミーを「ミッドサマー」のフローレンス・ピュー、ジョーの人生に大きな影響を与えるマーチ叔母をメリル・ストリープがそれぞれ演じる。第92回アカデミー賞では作品賞はじめ計6部門でノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。(以上、映画.comより)
予告編
豪華俳優陣の素晴らしいアンサンブル。
“自分らしく”幸せになろうとする女性たちの姿を描いた古典を、“現代の映画”にアップデートさせた傑作!
というわけで、『ストーリー・オブ・マイライフ~』鑑賞してまいりました。
第92回アカデミー賞衣裳デザイン賞受賞、その他多数ノミネート、豪華俳優陣で、
とにかく映画としてのルックがいい、ということで、さすがに僕が鑑賞した回は満席でした!
さすがに話題作ということで、初週末の興行収入ランキングも、このところ首位を5週連続キープしている『心霊喫茶「エクストラ」の秘密』に次いで2位!
6月17日(水)のレディースデイには動員前日比が160%超えということで、
好調な滑り出しといえるのではないのでしょうか。
これを機に、劇場へ行く抵抗感が薄れていって、また映画館が日常に戻ってきたらいいなと思う次第ではありますが…
少々脱線しましたが話を戻すと、本作は女優でもある、グレタ・ガーウィグ監督の長編2作目の監督作品です。
ってか2作目でこの貫禄ってどんなだよ!と(笑)
本作の主演でもあるシアーシャ・ローナンを起用した前作、「レディ・バード」。
A24制作の本当に素晴らしい“自意識の七転八倒”系青春映画で、非常に自伝的作品の色が強く、良い意味でこれからインディー系監督としてキャリアを積んでいくのかと思いきや、まさかの超クラシックな映画を作ってしまいました。
まずは何しろ、映画としての「ルック」がとにかく美しい。
原作者のルイーザ・メイ・オルコットの生まれ故郷であるマサチューセッツ州コンコードで撮影された本作ですが、ロケ撮影が本当に素晴らしくて、雄大な自然と美しい建築物、その中で繰り広げられるドラマの切り取り方。
あまりに画がキマりすぎていて、思わず息をのんでしまうシーンがたくさんあって、それだけで映画としてはもう100点でしょう。(マジで)
こんぐらいキメキメな画が本当に好きなんです。
上の写真以外にも、ジョー(シアーシャ・ローナン)とローリー(ティモシー・シャラメ)がダンスするシーンとか、クライマックスの雨のシーンとか、本当にキリがないくらいなんですけど、やっぱり映画的にものすごくイイのが、オープニング!
出版社の扉の前のジョーのシルエットから始まるんですが、ここが本当に見事で。
これについては、パンフレットの三村里江さんのコラムが素晴らしいので、ぜひ読んでいただきたいのですが、そこからのジョーの疾走シーン!
男性たちの中を逆方向に走るジョー。
このオープニングのシークエンスが、この映画のテンポを決定づけて観客を引き込む効果もあり、しかもどういう物語で、主人公がどういう人物かを雄弁に描いている名オープニングでした。
この時点でもう100点ですよね(マジで)
で、これだけ美しい映画の中で物語を紡いでいく登場人物たちなんですが、
演じる豪華俳優陣が素晴らしいです。
次女ジョーを演じるシアーシャ・ローナンは、ガーウィグとの相性が半端じゃないことは「レディ・バード」でも証明済みなので言わずもがな。
子供パートはおてんばだけど、別にガサツに見えない絶妙な塩梅だし、現在パートはそこに色んなことを経験した影と、それでも夢を諦めない強い意志を見せるという、本当に見事な演技でした。
そしてジョーとのバディ感が最高なローリー演じるティモシー・シャラメ。
こちらも「レディ・バード」組で、シアーシャとの相性もばっちりなんですが、それがそのまま映画にフィードバックされていて、、、尊すぎる(真顔)
本当にこの2人の親友感が凄いんですよね。
この感じがあるから、2人がその後の人生を分かつ場面がしっかり効いてくるし、、、
話題になってましたけど、ローリーのベストをジョーが着てたりね
まぁ本当にこの2人の魅力が炸裂しているんですが、もちろん他のキャストもすごい!
長女メグを演じるエマ・ワトソンは、正直僕は最近あんまり見てなかったんですけど、
こんな大人な演技ができるのかと。
超しっかり者で現実を見てるんだけど超キュートな一面もあって、個人的にはこのエマ・ワトソンが見れてよかったと思いました!
最後まで笑う時に、歯を見せないようにする演技とか細かいキャラ付けまでしっかり演技しているなぁと。そしてキュート!
三女ベスを演じるエリザ・スカンレンは、不勉強ながら存じ上げなかったのですが、
ベスのイノセントな感じをすごくよく表現されていましたよ!
末っ子エイミーはフローレンス・ピューが子供時代の生意気な感じも、現在の完全に割り切った女性の感じも、そしてそれでも姉たちが大好きな感じを見事に演じていました。
その他みなさんよかったんですが、総じてキャスティングの説得力がすごい!
自分とルイーザを投影したシアーシャ、現代の女性像を描く作品でのエマ・ワトソン、そしてマーチ叔母さん演じるメリル・ストリープ!
小説家になる夢を語るジョーに対して、「女は娼婦になるか女優になるかしかなかった」というセリフの説得力が本当にすごかったです。
で、お話自体は家族がバラバラに過ごしている「続若草物語」の時点を現在として、子供時代の「若草物語」を回想していくという、いわゆる時系列シャッフルの構成をとっているのですが、この構成が、本作が描こうとしたテーマと密接に関係していると思います。
ちなみに、現在パートが冷たい感じの色調になっているのに対して、子供パートが温かい色調になっているみたいな撮影による描き分けも見事にはまっていたと思います。
編集についても、現在パートで起きたこと、同じ動きから子供パートへ繋ぐ編集なんかは個人的にめっちゃ好きです(笑)
本作におけるこの時系列シャッフルの構成って、単なる回想というよりは、ジョーが現在のその時々で抱えてる問題から、連想される形で引き出されている「過去の思い出」であり、
ある種、ジョーが自分の子供時代を「物語」として思い出しているように見える効果があるのではないかと。
そしてそれこそ、「若草物語」がルイーザ・メイ・オルコットの自伝的小説であり、ジョーがルイーザの分身であることを誠実に描こうとした、グレタ・ガーウィグ監督の狙いではないのかと思います。
もっと言えば、これは「レディ・バード」で描かれた監督自身の分身でもあるわけですしね。
つまり、ある種メタ的な視点を組み込むための仕掛けとしてこの構成をとったのだと僕は思います。
現在と過去を行ったり来たりして、畳み掛けるようにそれが加速する終盤、ジョーが編集者に自分の物語の結末をどうするのか尋ねられた時に挿入される”ハッピーエンド”は、現実にあったものなのか、あくまでジョーが描いた物語なのか、僕はちょっとわからなくなるような感覚になりました。
ここで、ジョーと編集長が「Little Women」のコピーライトをめぐるやりとりがありますが、ここが先述した構成の妙も相まって、本当にスリリングな場面で素晴らしい。
しかも、このシーンが本作のテーマを凝縮したシーンでもあると思います。
ジョーは結末を”ハッピーエンド”に変えてでも、「Little Women」の著作権を手放さないという選択をするんですね。
冒頭で少しのお金のために著作権を売ってしまう下りがありますが、対になったこのラストは、まさに自分の人生の物語である「Little Women」は誰にも渡さないという宣言であるわけです。
ここに監督が描きたかったものがあるのではないかと僕は思います。
グレタ・ガーウィグはインタビューで、「『若草物語』は女性がお金を稼ぐことの難しさについての本である」と言っています。
女性の生き方が制限されているのは、そもそも経済的な可能性の狭さと直結しているから、お金持ちと結婚することが幸せだと思い込まされている、と解釈して本作を作ったのであれば、このジョーの選択に力点が置かれているのは明白です。
そしてもちろんこれはルイーザの選択でもあり、その選択をメタ的に描くことで、現実の世界へのフェミニズム的な視点からの批判を加えたということになっている。
ここに、本作がいかに原作とルイーザに対して、誠実かつ現代的にアップデートした作品であるかが表れているように感じました。
長女のメグは結婚して貧困にぶつかりながらも、幸せを見つけました。それもいい人生。
三女のベスは病に倒れたけど、最後まで父のように他の人を思いやった。それもいい人生。
末っ子エミリーは玉の輿婚活の末、本当に好きだった人と結ばれた。それもいい人生。
そして次女ジョーは自分の人生の物語を決して手放さなかった。
「若草物語」は古典として、普遍的に全ての女性の人生を肯定する作品であることは言わずもがなですが、本作は原作者ルイーザ・メイ・オルコットの視点、原点に立ち返り、今の現実を厳しく見据えた「わたしの若草物語」として生まれ変わった見事な作品だと思いました。
ニュークラシックとしてふさわしい、素晴らしい映画ですので、皆さん是非劇場でご鑑賞ください!!