チャンタの映画感想ブログ

新作・旧作映画のレビューブログです。ネタバレはできるだけ避けています。

『あの頃。』~映画感想文~

※この記事はちょっとだけネタバレしています。

 

『あの頃。』(2021)

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上映時間:117分

監督:今泉力哉 脚本:冨永昌敬

マネージャーやプロデューサー、ベーシストとして「神聖かまってちゃん」などのバンドや音楽ユニットにかかかわってきた劔樹人の自伝的コミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」を、松坂桃李主演で実写映画化。大学院受験に失敗し、彼女もお金もなくどん底の生活を送る青年・劔。松浦亜弥のミュージックビデオを見て「ハロー!プロジェクト」のアイドルに夢中になった彼は、イベントで知り合ったコズミンら個性的な仲間たちとともに、くだらなくも愛おしい青春の日々を謳歌する。しかし時は流れ、仲間たちはアイドルよりも大切なものを見つけて離れ離れになっていく。そんなある日、コズミンがガンに冒されていることを知った劔は、かつての仲間たちと再会を果たすが……。「愛がなんだ」の今泉力哉監督がメガホンをとり、「南瓜とマヨネーズ」の冨永昌敬が脚本を手がけた。劔がアイドルにハマるきっかけとなる松浦亜弥役を、「ハロー!プロジェクト」のアイドルグループ「BEYOOOOONDS」の山崎夢羽が演じる。(映画.comより)

 

”好き”に救われるということ

どうしようもない奴らの

どうしようもなく愛おしい「あの頃」

 

最近、邦画ばっかり観ている私ですが、本当は『ダニエル』とか『カポネ』とか観たいなーと思いつつ、なんとなく後回しにしてしまっている現状でございます。

この記事を書き始めた3/8には『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が始まってしまいまた洋画作品が後回しに、、、

 

と、どうでもいい前置きはさておき、『あの頃。』観て参りました!

公開初週の土曜日に鑑賞したのですが、劇場の入りはそんなにでした。映画好きと、あとモーヲタらしき人達が散見されましたね。

 

かくいう僕自身、2013年~2017年にかけてハロープロジェクトのアイドルにハマっていた時期がございまして。。。

道重さゆみの卒コンにも行って号泣した挙句、隣の年季の入った先輩ヲタ(a.k.a知らないオジサン)とニッコリ笑いあったなぁとか思い出しましたよ。。。

 

 

という昔話は置いといて、、、としたいんですが、僕みたいな人間としてはどうしても自分の話に引き寄せて語ってしまう映画でして。なので、この記事はちょくちょく自分語りが入ってくることをご容赦ください(笑)

僕の場合はアイドルに救われたなという経験があるので、こういう感じになってしまうのですが、要は、”好きなもの”を見つけ、それを共有できる仲間を見つけた時の喜びを描いた作品でもあるので。例えばこれが音楽だったり、映画だったり、はたまた『ちはやふる』における百人一首だったり、、、(唐突なちはやふる

とにかく、『花束みたいな~』の麦くん絹ちゃんよろしく、「自分はこれが好き」「え?あなたもこれ好きなんですか?」みたいな、そうやってみんなで集まってワイワイする楽しさがギュッと詰まった作品なんですね。

 

原作が劔樹人さんの自伝的コミックエッセイということで、本作でも実在した「ハロプロあべの支部」の面々の他愛もない日々が描かれていきます。

監督は、『愛がなんだ』『his』など、今最注目されている今泉力哉監督。

ざっくりと監督の印象を言うと、人間のしょうもなさを絶妙に距離をとって見せつつ、恋愛感情が持つ狂気性まで描いた上で、それでも人間を愛おしいと思える、そういう微妙な感情の揺れ動きをしっかり映像で表現できる方だなぁと。

 

そして「ハロプロあべの支部」もとい「恋愛研究会。」のメンバーを演じるメンツが超豪華!なんと言っても主演が松坂桃李さんですからね!このヲタイケソすぐる。(エセ2ちゃん民)

あと、物語のキーになるコズミンを仲野太賀さん、石川梨華担当のロビさんを山中崇さん、劔があべの支部に入るきっかけとなるナカウチを芹澤興人さん、他にも若葉竜也さん、ロッチのコカドさん、と名俳優ばかり。

 

で、この面々が本当にどうしようもないモーヲタの日常を演じていくわけですが、やっぱり気になるのは、「アイドルファン」というものをどう描くかというところで。

まぁAKB48の登場、そしてアイドル戦国時代という言われ方をされて以降、ライトなアイドルファンや、女性ファンがたくさん増えて、「アイドルファン」というもののネガティブイメージはかなり無くなったと思いますが、少なからず映画やドラマの作品では記号的に描かれることが多い「アイドルファン」。

 

しかし本作では、今泉監督や脚本の冨永さんが絶妙な距離感を保って、例えば1個1個の小道具など、アイドルファンに対して敬意をもって描かれています・

本作は恋愛映画ではないですが、傍から見たら狂気を感じてしまうような部分も含めて、何かを「好き」であるということの尊さや、それが人生を豊かにしたり、世界を拡張することを丁寧にすくいあげています。

 

その最たるものが序盤、劔が松浦亜弥のド名曲「桃色片想い」のミュージックビデオを見るシーンですね。

www.youtube.com

 

劔はもう、オープニングから目が本当に死んでるわけです。

スタジオで練習不足のベースを怒られているときも、チャリ漕いで家に帰ってる時も、汚い家でベースを練習しているときも。

松坂桃李さん、目の輝きを失わせたら本当ピカイチ褒めてます

で、生きてるのか死んでるのかわからない感じの劔を見かねた友人が、差し入れで「桃色片想い」のDVDをプレゼントするんですが。

もうね、ここ本当に身に覚えがありすぎて、、、

序盤も序盤なのに思わずウルっと来てしまいました。

 

僕自身ですね、大学生の頃、勉学もサッパリだし、自分の趣味の音楽活動も鳴かず飛ばず(僕もベーシストでした)で本当に下宿先に引きこもっていた時期がありまして。

そんな僕を見かねた友人が、手渡してくれたのがこちらのDVD。

せっかく借りたし見てみるかということで、見始めるとそこには素晴らしい楽曲と、全力でパフォーマンスをするメンバーの姿が。

その姿に釘付けになってしまい、思わず2周目に突入してしまう始末。

これ以来、完全に℃-ute、そしてモーニング娘。やJuice₌Juiceなどハロープロジェクトのアイドルグループだけでなく、Tomato’n Pine、バニラビーンズ、tengal6(現Lyrical schoolの前身グループ)、Negiccoなどなど、、、の楽曲を追いかけるようになりました。

まさに描かれていた劔と同じようにアイドルに出会ったのです。

 

桃色片想い』の映像を見ながら徐々に目に輝きを取り戻す松坂さんの演技も素晴らしかったし、無我夢中でCDショップに向かう時の、”出会ってしまった喜び”が溢れた表情もよかったですね。

で、入った店がやたらハロプロ推しのレイアウトになってて爆笑(笑)

ここでナカウチさんが劔をイベントに誘うわけですが、ここの芹澤さんの何とも言えない先輩感(笑)

 

誘われるままに「ハロプロあべの支部」のイベントに参加する劔青年。ここで初めて、自分の「好き」を共有できる仲間に出会います。

重ね重ね言いますが、ここの松坂さんの表情が本当に見事!

“出会い”のシーンからずっと、自分の「好き」が共有されていく、自分の孤独が他者と共鳴していく喜びを表情だけでバッチリ伝えていて。。。

映画としては本当に序盤なんですけど、ここにこの映画の全てが詰まっていると感じました。

 

そこからは「恋愛研究会。」の面々がわちゃわちゃ楽しく過ごしてる様子が描かれていくんですが、

もうこのメンバーの醸し出す“同志感”が演技に見えなくなってくるという(笑)

パンフレットのキャストインタビューでも、本当にいい現場だったようで。

基本的にはコメディタッチで描かれていくのですが、本当にコントを見ているみたいで、劇場でも結構笑いが起こっていました!

特に、イトウさん(コカドケンタロウ)の家で集まってるシーンとか、ツッコミの間とかトーンがさすがのコカドさんって感じで!

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あと学園祭でのトークショーのシーンは、当人にとっては自分の「好き」を語れる!布教!という感じで熱が入ってるんだけど、傍から見たら泣いて逃げ出したくなるほど狂った集団に見えるっていうね(笑)

たまに飲み会とかで、スイッチが入って映画の話を延々と喋ってしまった時の周りの感じを思い出して、若干胸が痛みましたけどね(笑)

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「僕たちは小学校、中学校、高校、大学と卒業するたびに出会いと別れを繰り返す。しかし大人になった今、もう卒業はない」

 

そんなモノローグが出てきましたが、大人になっても「そろそろ大人にならないとな」と思う瞬間は出てきます。特に何者にもなれていないと感じているときほど。

劇中、劔青年も自分の未来に不安を感じ、アイドルファンからの卒業を考えます。

 

その後、劔青年はあややの握手会に参加するのですが、ここもまぁ身に覚えが(笑)

℃-uteとも少し距離を置いていた就職活動中、会社説明会の帰りかなんかにたまたますぐ近くのタワレコで、℃-uteのまいみーこと矢島舞美さん(筆者はまいみー推しでした)が握手会をしているとの情報を入手。

即座に店に向かったけど、「俺ニワカだし、1人だし、、、」と不安に思いながら順番を待って。何回も「応援してます!・・・違うな。元気をもらってます!・・・うーん。」と独り言をつぶやき(笑)

で、自分の番になってほぼ何にも覚えてないんですが、「いつもありがとう!」と笑顔で握手してくれるまいみーを見て、「あ、俺も頑張らなきゃ」と思ったのは覚えています。そして2日は手を洗えませんでした(笑)

そんな感じで、自分にとってアイドルを推すことって自分の活力になることだったんだと、今になって思います。

 

「僕たちは小学校、中学校、高校、大学と卒業するたびに出会いと別れを繰り返す。しかし大人になった今、もう卒業はない」

 

自分の「好き」を卒業する必要はないし、距離をとる時期があってももう一度触れたら鮮明に「あの頃」を思い出す。

劔青年の場合は、落ち込んでアイドルファンをあややのポスターを剥がそうとした時に、彼を励ますべくシチューを作って、背中を支えてくれるのがコズミン(仲野太賀)でした。

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仲野太賀さんの名演も相まって、このコズミンは本当にセコいしウザいし、絶対友達にはなりたくないやつ(笑)として描かれているんですが、「あいつ最低だけど、優しいところもあるんだよな」って感じで、憎めないやつだなぁって。

そのコズミンが、ある人生の岐路を迎えたときの、他のメンバーの雰囲気もすごく自分のコミュニティに近いものを感じましたね。あそこまでヒドくは無いと思いますが(笑)

 

ラストのコズミンが何を聴いていたのか、という結末と、橋の上で起きるある映画的な飛躍。

要は「あの頃」と今をつなぐことで、あの頃の自分たちと今の自分たちの両方を温かく肯定できるようになったと。そしてそのきっかけはアイドルであったと。

 

決していい人なんかじゃない、むしろ傍から見れば最低な人の人生。

でもそんな人の人生にもかけがえなさ、愛しさがあって、それは素晴らしく尊いものじゃないか、と絶妙な距離感をもって描き出す、そんな優しい映画だなぁと感じました。f:id:Heinoken:20210312173843j:plain

基本的にはすごく良かったし非常に面白かったんですが、その上でどうしてもキツイ部分もありまして。

これは他の人の批判でも見受けられたんですが、僕もどうしても「恋愛研究会。」のイベント、および女性絡みのゴタゴタの描写については、正直キツかったです。

言ってしまえば完全にホモソーシャルなノリで、そこにインセル的なマッチョイズムとか感じてしまって。

まぁ僕の仲間も当時はそういう雰囲気あったなぁと自戒も込めて、そういうことも「あの頃」として全肯定して懐かしむことができないなぁと思いました。

 

とはいえ、「アイドルファン」を描いた作品としても、これ以上ないほど敬意を感じる描き方だったと思いますし、自分自身アイドルファンでよかった、また今のアイドルソングも追っかけたいなぁと思えた、素晴らしい作品だったと思います!

 

自分の「好き」を全力で肯定してくれる作品!是非劇場でご覧ください!

最後に℃-uteの素晴らしいパフォーマンス動画を貼らせてください(笑)

www.youtube.com