チャンタの映画感想ブログ

新作・旧作映画のレビューブログです。ネタバレはできるだけ避けています。

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

※この記事はちょっとだけネタバレしています。

 

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2020)

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上映時間:102分

監督:オリビア・ワイルド

「リチャード・ジュエル」「トロン:レガシー」などの女優オリビア・ワイルドが長編監督デビューを果たし、女子高生2人組が高校最後の一夜に繰り広げる騒動を描いた青春コメディ。高校卒業を目前にしたエイミーと親友モリーは成績優秀な優等生であることを誇りに思っていたが、遊んでばかりいたはずの同級生もハイレベルな進路を歩むことを知り、自信を失ってしまう。勉強のために犠牲にしてきた時間を一気に取り戻すべく、卒業パーティへ繰り出すことを決意する2人だったが……。主演は俳優ジョナ・ヒルの妹としても知られる「レディ・バード」のビーニー・フェルドスタインと、「ショート・ターム」のケイトリン・デバー。「俺たち」シリーズのウィル・フェレルとアダム・マッケイが製作総指揮。(映画.comより)

 

予告編

youtu.be

 

 2020年代、青春映画の新たな金字塔!

“頭でっかち”な2人の一夜の大冒険。

とにかく笑えて、元気になれる快作!

 

という訳で「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」公開初週の土曜日に観て参りました。

朝イチの回だったこともあるのか、人は少なめ。

できれば、中高校生とか大学生たちに是非とも観て頂きたい作品だったので、午後の回とかのお客さんの入りが気になりますが、、、

 

 

さて、巷では『スーパーバッド 童貞ウォーズ』の 女性版とか言われていてめっちゃ話題になっていたので、すごく楽しみにしてたんですが、ほんとに面白くて楽しい映画でした!

 

 

で、Twitterの感想で僕も書きましたが、本作が「新たな青春映画の傑作」と評判なのは、劇中で描かれる高校生たちの描き方の部分が大きく関わっていると思います。

 

アメリカのハイスクールを舞台にした青春映画といえば、ジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』とかジョン・ヒューズの『ブレックファスト・クラブ』とか、リチャード・リンクレイターの『バッド・チューニング』とか、僕も大好きな傑作が数多くありますが、これらの作品はいわゆるスクールカーストであるとか、人気者とその他の人物の差を見せ、その交流の中から友情や成長を見せていく作りになっていると思います。

 

で、そういう作りにするにあたり、第一印象で登場人物の役割がはっきりとしたキャラクター造形(悪く言うとステレオタイプ)が採られていたと思うんですね。

パッと見て、こいつはジョックスだ、こいつはナードだ、みたいな。それがだんだん変化していくのが魅力の作品だと思うのですが。

 

本作はそういった作品群にリスペクトを払いつつ、別のベクトルから物語を描いていると思うんですね。

本作は、「階層の差」から豊かな可能性を浮かび上がらせていくのではなく、「階層の差」自体は無効化されていて、そこからの人間関係を描き、豊かな可能性を見せる物語だと僕は思っています。

 

この手の映画のよくある感じだと、イケてるやつは悪役として描かれがちですが、本作は悪役に当たる登場人物は大人も含めて1人も出て来ません。(あ、一人犯罪者の男は出て来ますが、、、)

また、本作は主人公の1人がレズビアンであったり、LGBTQの学生が登場しますが、それが主題になることはなく、あくまで「個性」としてフラットに描かれています。

 

そういうフラットさが、本作から受ける清々しさ、風通しの良さの要因なのかなぁと。

Netflixで配信されている『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから(傑作!)でもそういう描き方でしたが、そういう意味でも“今のハイティーンの描き方”のスタンダードは、このフラットさなのかなと思います。

 

と、まぁ堅苦しい書き方になってしまいましたが、要は登場人物全員が超魅力的!!という一言につきます(笑)

 

まぁなんといっても、本作の主人公であるモリー(ビーニー・フェルドスタイン)とエイミー(ケイトリン・デヴァー)

この2人は5億点の魅力です!!(点数のインフレ)

 

映画の冒頭、高校最後の登校日にモリーと車で迎えにきたエイミーが、思い思いのダンスを始めるシーン。

もうね、この時点で最高なんです!(笑)

イケてない感と、でも当人たちはめっちゃ楽しそう感で、「この二人を永遠に見ていたい、、、」って感じで、完全にノックアウトです(笑)

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この2人はフェミニストなんですが、モリーは最年少で最高裁判事を目指すキャリア志向で負けず嫌いの女の子、エイミーは自身がレズビアンであることをカミングアウトしているアクティビストタイプで、ちょっと引っ込み思案。

そういうことが、2人の会話や部屋のインテリアとかから読み取れて楽しいですし、演じるビーニー・フェルドスタインとケイトリン・デヴァーが見事に体現していたと思います。

ビーニーはジョナ・ヒルの妹ということもあり、完全に兄の血を引いてるな。。。

 

その他のメンツも最高でして。

イケてるやつ代表のニック(メイソン・グッディング)とか、めちゃくちゃ遊んでそうな“トリプルA”(モリー・ゴードン)とか、、、全員魅力的で一人一人細かく言及したいんですが、、、

 

僕の特にお気に入りはやっぱり、金持ちで人一倍目立ちたがり屋のジャレッド(スカイラー・ギゾンド)と神出鬼没のぶっ飛びお嬢様ジジ(ビリー・ロード)!!

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この2人は絶対に誰が見ても最高なんですけど、2人とも人との接し方がわからないという非常に切ない奴らでして、、、

ジャレッドのめっちゃウザがれてるけど、ちゃんと一人一人に丁寧に接しようと努力(若干間違えてる)してるところとか超好感持てるし、ジジはぶっ飛んでるんだけどそれ故に見てるだけでこっちの悩みなんか小さく感じてくるような明るさがあって、すげー羨ましくもあったり。

ちなみにジジはキャリーフィッシャーの娘らしく!なんかポイなぁと思っていしまいました(笑)

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話を作品の中身に戻すと、高校生活の中で「遊びより高みだ!」と勉強を頑張っていい大学への進学が決まっている主人公2人なわけですが、最終登校日の学校へ行くとチャラチャラした先述のバカたちが大騒ぎ!

夜のパーティーは誰のところへ行くか、みたいな話をしているバカたちを尻目に、2人は粛々と1日を終えようと思うのですが、ここでモリーが衝撃の事実を知るわけです。

 

なんと今までバカだと思っていた連中が自分よりいい大学への進学や、企業への就職を決めていた!そんなバカな!

というわけで、今まで遊んで来なかった分を一晩で取り戻す!私たちはスマートで面白いんだということをわからせてやる!とパーティーに向かう、、、というのがざっくりしたあらすじです。

 

監督がパンフレットのインタビューで、本作をアクション映画や戦争映画のように取り組んだバディ物の警察映画のように、女の子たちの楽しくて刺激的な冒険として描いた、と語っていますが、パーティーを転々とするモリーとエミリーの様子はまさに冒険物語。

 

高校生最後の日を家族で過ごすのを楽しみにしているエミリーの両親をどうやって撒くか(笑)から始まり、会場の場所調べ、移動手段の確保、パーティー会場での一悶着を繰り返して行くのですが、このテンポの良さ!

この間もモリーとエイミーは、セックスの話とか犯罪を犯した偉人の話とかローザ・パークスには思わず笑った)、恋愛の話とかずっと会話してるんですが、なんか仲良い友達ってマジで話尽きないよねって思ったり(笑)

 

モリーがどうしても1番イケてるニックのパーティーに行きたいと、「友人を無条件で支える」というルールの「マララ」を宣言すると、エイミーも「うわ、マララしちゃう?それされたら断れないじゃん、、、」みたいなやりとりとか、綺麗なドレス着てお互いをめちゃくちゃ褒めてる様子とか本当に最高だなって思って。

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もちろん2人の関係性に萌えてるわけでもありますが、同時に、人と関わる時はやっぱこうありたいよなぁって思うわけです。

 

この2人も、2人の関係性の中では、はしゃいでバカな話もできるんですが、他の同級生に対してはそう振る舞うことができません。

みんなのことをバカにしていた、そんなみんが自分たちより良い進路(とされている)に行くことに対して、私たちだって素晴らしんだ!という姿勢。

 

この負けん気はある種の自信の無さの表れでもあります。

だから彼女たちは常に“正しく”あろうとするし、そのための努力だって惜しまない。

 

でも“正しいでっかち”になればなるほど窮屈になっていくし、自分たち以外を“間違っている”と思いこんで見下す傲慢さに繋がる。

 

ようやくたどり着いたニックのパーティーで2人はそれを学びます。

リア充”軍団が自分たちのことをフラットに迎え入れてくれたこと、自分とは違う世界に生きていると思っていた人が同じ趣味を持っていたり、同じ悩みを抱えていること。

そして、親友の“正しさ”と自分の“正しさ”もまた違うこと。

 

ちなみにここでのエイミーの恋の顛末が描かれるシーンが本当に見事で。

プールに入るために服を脱ぐ、プールから出て服を着るという、アクションでもエイミーの心情を表現していたり、そのあとの彼女の変化、世界の見え方がよくわかるような、彼女を真ん中ヨリ気味に正面から撮るショットとか素晴らしかったですね。

 

パンフレットに寄稿されている音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんのコラムでも言及されているアラニス・モリセットの「You Oughta Know」の完璧なフック!

ストレートに映画の見せ場作りとして本当に見事だと思いました!

www.youtube.com

 

まぁそんなこんなでニックのパーティーで色々あった2人がどんな選択を取るのか。

 

僕はめちゃくちゃ感動したんですが、要は“正しさ”を信じて生きてきた2人が一夜を通して“正しくなさ”の中にも輝きや喜びがあることを知り、“正しさ”から自分を解放していく話なんだなぁと思いました。

 

“正しさ”から解放された彼女たちの晴れやかで生き生きとした姿。全員が全員を心から祝福するラスト。本当に素晴らしく、これこそ青春映画の美しい瞬間だなぁと思いました。

 

もちろん一夜を通して彼女たちは成長したし、“正しさ”から解放されました。

でも、それまでの彼女たちが全て“間違い”だったのではなく、彼女たちの“らしさ”を彼女たちが肯定した結果、みんなのことも肯定できるようになったということだと感じさせる描き方なのが、今のティーンを描く時にすごく誠実な描き方だなと思いました。

 

ラストカットの切れ味も本当に素晴らしい!!

この明るさも彼女たち“らしさ”ですね!!「え、まだ行くっしょ!!」

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本当は同級生1人1人に言及したいし、周りの大人たちもめっちゃサイコーだったし(特にファイン先生はドンズバでタイプ、テオとはいい酒が飲めそう)、パンダ人形のくだりと「それ、カーディ・B?」に爆笑したり、、、

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ファイン先生の写真貼っておきますね。

これまでの学園モノ青春映画の最新系であり、それらが持っていた普遍的なメッセージもある、誰が見ても楽しめる作品だと思います!

音楽も楽しいので、ぜひ映画館でご鑑賞ください!!オススメです!!

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