『花束みたいな恋をした』〜映画感想文〜
※この記事はちょっとだけネタバレしています。
『花束みたいな恋をした』(2021)
上映時間:124分
「東京ラブストーリー」「最高の離婚」「カルテット」など数々のヒットドラマを手がけてきた坂元裕二のオリジナル脚本を菅田将暉と有村架純の主演で映画化。坂元脚本のドラマ「カルテット」の演出も手がけた、「罪の声」「映画 ビリギャル」の土井裕泰監督のメガホンにより、偶然な出会いからはじまった恋の5年間の行方が描かれる。東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦と八谷絹。好きな音楽や映画がほとんど同じだったことから、恋に落ちた麦と絹は、大学卒業後フリーターをしながら同棲をスタートさせる。日常でどんなことが起こっても、日々の現状維持を目標に2人は就職活動を続けるが……。(映画.comより)
予告編
主人公たちの懸命さや愚かさの全てが愛おしい
圧倒的脚本力で描く若者たちの”奇跡の時間”
恋愛映画の新たな大傑作!!
年末の雑なベスト10記事でも決意したように、今年は頑張って観た映画全部記事にしていきたいと思っているのですが、2021年初投稿は、今年2本目となったこの作品!(1本目は大九明子監督の『私をくいとめて』)
公開2日目の土曜日の昼の回を観に行ったんですが、女性グループ、カップル、老夫婦などなどたくさんの人が入っていました。
久々にストレートな恋愛映画、加えて主演が菅田将暉、有村架純となるとさすがに色んな人が観に来るもんですね。もちろん、坂元裕二が脚本という部分で観に来た人も大勢いるでしょう(僕もその1人)
で、鑑賞後の僕の感想はこんな感じ。
『花束みたいな恋をした』観賞。
— チャンタ (@chantake_cinema) 2021年1月30日
坂元裕二の圧倒的な脚本の力、それを的確に捉えて映像化する土井監督の手腕、俳優陣の素晴らしい演技と佇まい、こんな一級品のラブストーリーが今映画館で大展開されてることが本当に嬉しい。大傑作という言葉を使いたく無いくらい、個人的に大切な一本でした。続く→
もうね、感情が溢れて動揺してて、いつもみたいに「ここがこうで素晴らしい」みたいな褒め方が出来ないんです。とにかく今の自分だと思ったし、懐かしい気持ちになったり(劇中の固有名詞のこともあるけどそれ以上に概念として)、そして自分が進む未来かもと思ったりで、つまりとても普遍的な作品でした
— チャンタ (@chantake_cinema) 2021年1月30日
ちょっと140字じゃまとめきらなかったので2つに分けたのですが。
とにかく、自分がこういったラブストーリーにここまで感情を揺さぶられるとは思ってなかったので、正直動揺して情緒がおかしかったです(笑)
正直に申し上げますと、僕はいわゆる邦画の”ラブストーリー”に疎くて、、、
『そこのみにて光輝く』とか『愛しのアイリーン』だとか、昨年のベストにも入れた『本気のしるし 劇場版』など、好きな作品も破滅的なラブストーリーが多くてですね。
なので、本作みたいな”どこにでもある男女の恋愛”を描いた日本映画にはあまりピンとこなくて。ただ、個人的に生涯ベストには『ビフォア〜』3部作は入ってくるので、恋愛映画が苦手な訳ではないです。
ただまぁどうしてもこういう映画って、"2人だけの物語"みたいになって、周りを取り巻く環境とか社会がうまく描けていない印象で(偏見ですが)。
その結果、ただただ知らない人の恋愛模様を見せられてる気分になってきて興味が無くなっていく、、、みたいになりがちなんですよね。まぁ言ってしまえばどんな恋愛映画もそうなんですけど、そこの乗れるか乗れないかのジャッジの基準が自分でもよくわからなくて。
だから本作を観て、改めて恋愛映画を作るってめっちゃ難しいんだなと思いました。
さて、本作のことを書く時に絶対に外せないのが、脚本家の坂元裕二さんについて。
なんですが、不勉強ながらテレビドラマとかあんまり観てこなかったため、「最高の離婚」「問題のあるレストラン」「カルテット」くらいしか観ておりませんで、、、
なので、坂元裕二さんについては「会話劇の名手」「社会性を背景に忍ばすのが上手」くらいの認識しか持っておらず、、、
ただ、どのドラマも面白くとても印象に残っていて、それ故ドラマ音痴の僕でも坂元裕二という名前は覚えていたっていう感じですね。
で、鑑賞後はっきりと思ったのは、これは「坂元裕二の作品」なんだと。
認識足らずのくせに何をと思いますが、これほど脚本の力を感じた作品って「ビフォア」シリーズ以来でして。
とにかくモノローグ、セリフ、キャラクターの全てに魅力があって、それだけで映画って面白くなるんだと思いました!
普段から「映画なんだから映像で見せろ!」派の僕なので、本作みたいにモノローグが大量な作品については速攻で拒否反応を示すのですが、それがどういうわけかほとんど気にならない、もっと言えばモノローグで進行していく話に完全に引き込まれていったんです。
自分でも本当にびっくりしたんですが、これが脚本の力、坂元さんの手腕なんだなと思いました。
坂元さん曰く、日記みたいな作品にしたかったということもあり、確かにそういうちょっと俯瞰で懐かしむような語りだったからかもしれないですが、このモノローグの洪水に呑まれてしまったのは自分にとって、映画というものの面白さを再確認できたことでもありました。
じゃあ、肝心の映像はどうなんだと思うのですが、この脚本を最大限に生かす撮影と編集がされていて、素晴らしいと思いました。
とにかく冒頭から色んなところでリフレインが多い本作。下手するとめっちゃクドくなりがちなんですが、これを鎌苅洋一さんの撮影と穂垣順之助さんの編集が見事にまとめあげてて!
冒頭のカットバックだったり、何気ない夜の街の風景のインサート、2人の関係性に合わせたショットサイズとカメラワーク、、、
特に終盤、2人のファミレスの会話の撮影なんか本当に素晴らしくって。あんな限定的な空間なのに2人の心の距離と変化をショットのサイズと微妙なズームアウトだけで表現されちゃうともう、、、お見事です(泣)
ことほど左様に、映画としてのクオリティがめちゃくちゃ高い。
美術衣装も本当に素晴らしいし、それを完全に自分のものにしている菅田将暉、有村架純のお2人の役者としての力量たるや。もちろんスター級の2人なんですが、この普通の人感はなんなんでしょうか、、、
そしてそれを演出する土井監督の仕事っぷり。
土井監督については「空飛ぶ広報室」「重版出来!」「逃げ恥」「凪のお暇」とかなんだかんだ観てる作品も多いんですが、ドラマって脚本家のほうに注目してしまいがちで、、、
インタビューとか読むと本当に役者の演技を引き出すのに長けた人なんだなと思い、そんな土井さんの監督としての手腕の確かさを確認した1本でもありました。
そんな感じで、鑑賞後5日経った今でこそこんな風に”映画としてどうよかったか”みたいな褒め方ができてるわけですが、鑑賞後はもう言葉にならない感情が溢れすぎてしまって、、、
個人的な話をすると、僕は主人公の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)の一個上の学年で、おまけに就職も人より遅いという、ほぼほぼ同じ感じの大学生で。さらに、こんなブログやってるくらいなので、もちろん音楽とか映画が大好きで。
麦と絹の話題に出てくる、きのこ帝国とかフレンズとか「希望のかなた」とか、完全にリアルタイムで経験しているし、僕はまた少し違う趣向のものが好きなのですが、ほとんど似たようなカルチャーの触れ方をしてきました。
なので、必然的にそういう人たちの感じは痛いほどわかる。
「ショーシャンク〜」の下りとかめっちゃ笑ったし、個人的には麦が「ワンオク聴かないの?」と絹のお父さんに言われた時に、「聴けます」って言ったのは本当に爆笑しました(笑)
そういう、メジャーなものだけを無邪気に楽しんでいる”普通”の人に対して、ちょっと斜めに見て、「自分はそれとは違うんだ」と思う姿勢は、まさに大学生の頃の僕で(笑)
だからこそ、序盤の麦と絹の価値観やカルチャーへの姿勢が、すごくしょーもなくて、浅はかなものだなって思ってしまって(苦笑い)
白のジャックパーセル履いて、きのこ帝国が好きで、”マニアック”な映画とかばっかり観て、でも飼い猫にはバロンって名付けちゃういわゆる"サブカル"な人を、半目で見ていた悪質なオタクだったので、大学一緒だったら絶対友達にはならないタイプです(笑)
自己紹介の時の好きな言葉の件とか、「映画の半券、栞にするタイプですか?」って喜んでる感じとか本当にダッサイなと(盛大なブーメラン)
イヤホンを分けて聴く人は音楽好きじゃないと思ってるタイプでした(笑)
だから序盤の2人が距離を縮めていく過程とかは、共感とある種の同族嫌悪と、"サブカル"とラベルがつくものへの歪んだ優劣感で、恥ずかしいやらむず痒いやら、でも懐かしく愛おしいやらで大変でした(笑)
で、そんな彼らが付き合って、好きな家具揃えて同棲を始めて、2人で街を散策とか自分の経験を思い出して、この時間めっちゃ楽しいよなって思ったり。
その後、イラストレーターの夢を追いかける麦と、楽しく生きていたい絹の生活が崩れ始めるのが、麦の就職。
あの辺の麦の搾取のされ方とか本当にきついなーと思いましたし、絹と一緒にいるために定職に就くという選択も、すごく理解できる。
でも、それ自体に少し疑問を持ちつつ麦の選択を応援している絹が感じる、仕事やお金をきっかけにした2人の生活がズレていくことへの拒否感、寂しさもとてもわかる。
「『じゃあ』の数が多いんだよ」
「どんなに酷いこと言われても辛くないよ。仕事だから。」
最初は2人とも”現状維持”を目標にしていたのに、その”現状維持”が別のベクトルへ進んでいってしまう。
絹との生活に対する責任、仕事の責任。それが大きくなって仕事に打ち込むほど、好きだったポップカルチャーへの興味を失っていく麦。あぁ、こうやってみんなポップカルチャーや、文化的なものに触れなくなって、そういうものが失われていくんだと、本当に辛い気持ちになって。でも、これは自分の未来かもしれないとそんなことを思いながら麦を見ていました。
「パズドラしかする気がしない」っていうのはこういう人にとっては本当に悲痛な叫びですよね、、、
一方、絹は楽しく過ごすため、自分が自分らしくいれるために転職。これはこれですごく正しい選択だし、それで楽しく過ごしていうるちに麦との生活も取り戻せるんじゃないかと思うんですが、麦はもうその段階にはいなかったという。
自分の満足いく状態をパートナーとの関係に求めてしまうこと自体は悪くないんだけど、それがこの2人の場合、出会い方からしても”同じであること”に過剰に力点を置いてしまっていて。
自分自身や環境の変化に、お互いがついていけなくなったが故に関係性が破綻していくというのは本当にどっちも悪くないし、だからこそ辛い。
麦はあと少しだけ絹を頼ってよかったし、絹はあと少しだけ麦の変化を受け入れてあげればよかった。
と、こういう経験を自分もしたことがあるので思いました(遠い目)
まぁでもそれもなかなか難しくて。
絹が、”楽しく過ごす”ためにとる選択っていうのも今の20代の感覚としてはすごく理解できるし、一方で麦が感じる"現実的に負う責任"も男としてすごく共感するし。
この映画はもちろん恋愛映画なんだけど、同時に社会に出た若者の成長の物語でもあるわけです。
否応無しにぶち当たる現実とどう折り合いをつけていくか。2人が付き合う過程で、ふと東京の何気ない風景のインサートが挟まれるのも、2015年〜2020年までテロップが出たり、その時々の出来事やポップカルチャーが、ちゃんと固有名詞で出てくるのも、”2人だけの物語”にしないためだと感じました。
この辺りがさりげなく入ってくるのが、坂元さんの脚本の上品さ、巧みさなんだと思います。
「トイレットペーパー買えたかな?」の一言で2020年を表す手際の良さには思わずハッとさせられました。
そして、固有名詞を出すことで観客の記憶を呼び戻す、という点で普遍性が担保されている。見事としか言いようがないです。
そんな感じで、序盤こそ2人を生暖かい目で見ていたのですが、中盤から終盤にかけては完全にこの2人に乗っからされてしまいまして!
クライマックスのファミレスでの会話のシーンとか、映画的な撮影と編集も相まって、もう号泣&嗚咽ですよ。
劇場でここまでになったのは「クリード チャンプを継ぐ男」以来ですよ!
男ってこういう時こうなるんだよなーとか(笑)
あとちょっとでお互い納得できる、、、というタイミングで出てくる、「あの頃の2人」にそっくりな1組のカップル。
失った輝きは取り戻せないということを見せつけられるのは本当にキツイ、、、あのシーンは本当にキツかった、、、
ちなみにパンフの土井監督のインタビューによると、ここで麦は泣かない予定だったのが、菅田さんの感情が溢れる様子を見て、撮影を続行、それにつられて絹も泣くというシーンに。両者の演技力凄すぎでしょ、、、
自分が「花束みたいな恋をしていた」瞬間を見て、思わず笑ってしまうんだけど、それは本当に美しく尊い記憶で、それがあるから前に進めることもある。
「恋は1人に1つずつ」と言えるようになって、彼らはこの先の人生を生きていくんだと、とても爽やかな気持ちで劇場を出ることができました。
最後になりましたが、菅田将暉さんと有村架純さんという俳優がいたから、この映画は成功したんだと思います!
菅田さんの演技が凄いのは、それこそ「そこのみにて〜」から知ってましたが、本作の自然な感じ、ほとんど素の状態みたいな演技で、実在感がすごい!
特に気に入っているのは、喧嘩のシーンのあの顔(笑)絶対僕あの顔してます(笑)
有村さんも本当にいい女優だなぁと。坂元さん曰く、敵わないと思うほど演技が上手い。
「何者」の時にも思いましたが、本当に細かい表情だけで、あらゆる感情の表現ができてしまう。本作は彼女の今後を見る上で非常に重要な作品じゃないかな。
それぐらい演技が素晴らしかったです。あと単純にめっちゃ可愛い。
それと本当に最後になりましたが、パンフレットがめちゃくちゃいい!
デザインが可愛いのは言わずもがな、色んなスタッフの方のインタビュー、三浦しをんさん、門間雄介さんのレビュー、劇中出てきたり出てこなかったりする音楽、映画、小説などポップカルチャーについてのコラム、そして脚本以外はほとんど物書きをしない坂元裕二さんのインタビュー!!
読み応えたっぷりなうえに気の利いた仕掛けまでついてて、是非購入して欲しい!
日本の恋愛映画史に残るであろう大傑作だと思いましたし、個人的にもこの先、折にふれて見返したくなる大事な一本になりました!
是非劇場でご覧ください!超おすすめです!!