読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

無知蒙昧のモノ語り

映画、音楽、本、雑感などなど好きなものを好き勝手に書いてます。

『クリーピー 偽りの隣人』〜映画感想文〜

新作映画 邦画 ホラー ミステリー

 ※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

 『クリーピー 偽りの隣人』(2016)

 

f:id:Heinoken:20160702013848j:plain

 上映時間130分

 監督・黒沢清 脚本・黒沢清、池田千尋

 「岸辺の旅」でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した黒沢清監督が、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した前川裕の小説「クリーピー」を実写映画化したサスペンススリラー。「東南角部屋二階の女」で長編監督デビューした池田千尋と黒沢監督が共同脚本を手がけ、奇妙な隣人に翻弄されるうちに深い闇に引きずり込まれていく夫婦の恐怖を、原作とは異なる映画オリジナルの展開で描き出す。元刑事の犯罪心理学者・高倉は、刑事時代の同僚である野上から、6年前に起きた一家失踪事件の分析を依頼され、唯一の生き残りである長女の記憶を探るが真相にたどり着けずにいた。そんな折、新居に引っ越した高倉と妻の康子は、隣人の西野一家にどこか違和感を抱いていた。ある日、高倉夫妻の家に西野の娘・澪が駆け込んできて、実は西野が父親ではなく全くの他人であるという驚くべき事実を打ち明ける。主人公の犯罪心理学者を西島秀俊、不気味な隣人を香川照之が演じるほか、竹内結子東出昌大ら豪華キャストが集結。(以上、映画.comより)

 

 

 

 予告編

www.youtube.com

 

 

 

 

 ええぇ!?お父さんじゃ無いんですかぁ!?、、、いいと思います、そういうの。(劇中の香川さん風に)

 

 

 「CURE」「トウキョウソナタ」などの黒沢清監督の最新作ということで、観に行ってまいりました。

 西島秀俊竹内結子香川照之という豪華キャストだけあって、老若男女さまざまな人でほぼ満席に近い状態でしたね。で、笑うポイントでは笑い声もあったし、ビックリするポイントでは隣のお姉さんが結構な勢いで飛び上がってたりして、なかなかいい雰囲気で観れました。

 

 黒沢監督というと、僕的には「回路」が好きでして、テレビに映される白黒の人の写真の嫌な感じとか、最初に登場する「ヒトならざる存在」の動きには今まで発したことのない驚いた声(うわぁえいぃ!?!?みたいな)が出るくらいビビりました。あと鑑賞後しばらくは「よくわからん黒いシミ」を見るといやぁ〜な気持ちになるくらい後に引きずってましたね。

 

 

 そんな感じで、黒沢作品の「怖さ」っていうのは、「ふとした瞬間に、日常にある別世界へのスイッチを入れてしまった怖さ」だと思っておりまして。

 こちら側としてはなんてことないことがきっかけで、全くこっちの論理が通用しない世界と繋がってしまって、どんどんあっち側の磁場に引っ張られてしまう、という作品を作ってこられた監督だと思います。

 そういう意味で所謂「リアル」ではなく、ある種ファンタジー的な作品が多く、その「リアリティ」と「ファンタジー」の線引きが微妙かつ大胆なので、わかりやすいエンターテイメント性とは相性が悪い、飲み込みづらい作品になってしまうというのが、僕の黒沢作品に対する印象です。(矛盾しまくりの文章ですいません。。形容できない。。)

 逆に言えば、飲み込みづらさ=理に落ちなさこそが「恐怖」の本質であると僕は思うので、黒沢作品の怖さはビビりながらも大好きです(笑)

  

 はい、長々と前置きをしましたが、それでは本作はどうだったか。

 

 結論から言えば、今までの黒沢作品の特徴とエンタメ性のバランスがいい塩梅でとれた作品だったと思います。

 

 

 実際、映画館のエレベーターの会話で、二人組の女性が「なんかめっちゃ怖かったんだけど、結局香川さんなんだったの、、、」みたいな会話が聞こえてきて、「我が意を得たり!!」という感じでした(笑)

 

 ミステリー的なわかりやすい構造で、ある意味観客も安心してついていける物語ですが、様々な黒沢監督的な「違和感」のディテールが詰め込まれてて、黒沢作品好きとしてはサービス満点じゃねぇか!という感じです。

 で、その「違和感」のディテールこそが黒沢作品の怖さの根源であると。

 

 とにかく映画全体が嫌な感じで満ちているのが黒沢作品の魅力なんですが、本作も御多分に洩れずその魅力が満載です。

 

 白い窓枠が映っているだけなのに不吉!家の玄関口が映っているだけなのになんか薄暗くて、風とか吹いててなんかヤダ!建物の入り口の半透明のビニールカーテンがピラピラしててキモい!!急にカメラが上がっていって、上から地形を取っているだけなのに不気味!!!

 

 先に挙げた例は、まだホラー演出としてわかる感じですが、あからさまに怖くないはずの場面でもそれが仕掛けられていまして。

 

 高倉が勤務先である大学のガラス張りになった明るい場所で、早紀(川口春奈)を事情聴取するシーンがあるんですが、背景のエキストラの動きが明らかに計算された動きをしています。

 談笑している男子学生があるポイントで、何の脈絡もなくこちら側を凝視してきたり、話が核心に近づくに連れて一斉に学生が帰り始めたりと、背景がやたら気になる感じの画面になっています。

 このシーンでの照明も非常に特徴的ですね。核心に近づくにつれてどんどん照明が暗くなっていって、背景のエキストラもいなくなって。

 要するに画面を抽象化して、高倉と早紀だけの世界(もしくは高倉だけの世界)に見せる演出なんですが、まさに映画的な画面になっててサイコーです。

 

 

 そういった背景にたくさん気持ち悪さの仕掛けがされていて、下手したら気付かないレベルですが無意識に気持ち悪さを感じ取ってしまう演出が積み重ねられているさすがの黒沢節です。

 

 本作の「違和感」の大半を占めているのが、なんといっても香川照之さん演じる西野というキャラクター。

 一見ただの気持ち悪い人(それだけでも嫌)ですが、まぁ会話はできる。でもなんとなく会話が成り立っていない。

 

 前半の西野が出てくるシーンはそういった「特に何かがあったわけではないが何かが変」な感じが映画の緊張感を保ちつつ、ある種コメディ要素になっています。犬の躾とかチョコレートの件は、しっかり劇場でも笑いがありましたね。

 

 で、この西野の「なんとなくコミュニケート出来ない感じ」が高倉の日常に侵食してきます。

 鍵を握る少女、隣人の娘、元同僚たち、そして自分の妻までもが実はうまくコミュニケートできていないのでは、という予感が映画全体に滲み出てきます。

 

 そしてその嫌な予感が臨界点に達した瞬間に、それまでの日常から予想もしていなかった世界に否応なしに連れて行かれる後半。

 

 ここからは是非映画館で体験していただきたいので伏せますが、予告編から想像できるストーリーの斜め上をいきます(笑)

 結構ジャンルごとガラッと変わってしまうような舞台だったり小道具が出てきて、異世界感はあるので、「ありえねー」となってしまうかもしれません。ここが黒沢作品とウマが合うかとの分かれ目です(笑)

 

 ただ、この本作は設定からも推測できるように、北九州監禁殺人事件や尼崎事件といった実際の犯罪をベースにできています。

 限りなくフィクション的に描かれていますが、実際に「罪悪感につけ込み巧みに洗脳してくる」人はいるわけです。

 

 

 で、最終的に浮かび上がるのが「私たちのコミュニケーションの危うさ」だと僕は感じました。

 日常の中にある会話。それは本当に通じ合っているのか。

 実際、なんとなく会話を流してしまってコミュニケーションに齟齬が生まれたり、普通に言った言葉で急に相手を怒らせてしまうことってありますよね。(僕だけかもしれない、、、)

 その「コミュニケーションが成立しているという前提条件」が全く自分の錯覚だったら。錯覚と気づいた故に今まで見ていた世界が信用できなくなったら。

 

 そういう怖さがこの映画の語る怖さだと感じました。

 

 もちろん不満点もあります。

 いくらなんでも警察が無能すぎる!これが最大の不満点です。警察がちゃんとしてたらこんなことにはならなかっただろうに。あと、重要参考人の家に一人で乗り込むなよ!!

 まぁこれもコミュニケーションレス故だと思えばなんとか、、、

 

 昨今、「とりあえずホラーだし幽霊とかドーンと出せばいいか!」とか「本当に怖いのは人間です(キリッ)」みたいなホラー、スリラーがある中で、本作みたいな「よくわからんけど怖い」映画が大きく宣伝されてるのが嬉しい限りです!

 

 黒沢作品のなかでも一番わかりやすいエンターテイメントですし、竹内結子よくわからんけど色っぽいですし、あと「嫁の心夫知らず」映画としても楽しめる傑作でした!

 オススメです!!

 

 

 

原作、15回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞とってたんですね。知らなかった、、、

f:id:Heinoken:20160702034155j:plain

 

  初めての黒沢作品はこれでしたねぇ

f:id:Heinoken:20160702033947j:plain

 

2度と読みたくないですが一応興味があれば、、、

f:id:Heinoken:20160702034314j:plain