『事故物件 恐い間取り』〜映画感想文〜
※この記事はちょっとだけネタバレしています。
『事故物件 恐い間取り』(2020)
上映時間:111分
監督:中田秀夫 脚本:ブラジリィー・アン・山田
「事故物件住みます芸人」として、実際に9軒の事故物件に住んだ芸人・松原タニシの実体験を記したノンフィクション「事故物件怪談 恐い間取り」を亀梨和也主演で映画化。監督は、「スマホを落としただけなのに」「貞子」の中田秀夫が務めた。売れない芸人・山野ヤマメは「テレビに出してやるから事故物件に住んでみろ」と先輩から無茶ぶりされ、テレビ出演と家賃の安さから殺人事件が起きた物件に引っ越す。その部屋は一見普通の部屋だったが、部屋を撮影した映像には謎の白いものが映り込み、音声が乱れるなどといった現象が起こった。ヤマメの出演した番組は盛り上がり、ヤマメは新たなネタを求めて事故物件を転々とする。住む部屋、住む部屋でさまざまな怪奇現象に遭遇したヤマメは「事故物件住みます芸人」として大ブレークするが……。(映画.comより)
予告編
Jホラーの新たなステップへの挑戦!
お化け屋敷巡りのようなホラーアトラクション映画
でも、これ実際にあったんだよなぁ、、、
まだまだ暑いですが夏も終わりに近づいた感じになってきた今日この頃。
初週末興行収入ランキングでは1位という好発進!
今年唯一の邦画ホラー作品、しかも超怖そう!というわけで観てまいりました!
中田秀夫監督といえば、言わずと知れたJホラーの到達点とも言える名作『リング』、悲しいホラーの傑作『仄暗い水の底から』『クロユリ団地』など、まぁ数々のホラー作品で有名でありますが、実は最近の作品はちゃんと観れていなくて、、、
初のコメディ作品の『終わった人』とか、あと『スマホを落としただけなのに』とかはまさに、本作の脚本のブラジリィー・アン・山田さんと組んだ作品なので、観ておかなければならなかったなとちょっと反省したり。
中田監督自身はインタビュー等で、実はホラーが好きではなく、本来はメロドラマを撮りたいと。しかし仕事がホラーに縁深いのも事実で、、、ということをおっしゃっていて。
その意味で、日活ロマンポルノのリブート企画で撮影された『ホワイト・リリー』なんかはすごくメロドラマで、かつ所々にJホラー的な怖さを感じる作品となっていて本当に面白かったですね。
さて本作の話に戻すと、僕の印象としてはこれは飽和状態になりつつあるJホラーを次のステップに進めるための実験だと感じました!
とにかく、ホラーをポップなエンタメとして機能させるためにはどうすればいいのか、という方向に振り切った作品であるわけです。
その意味で、観る人を地獄へ誘うようなNetflixの『呪怨 呪いの家』とは真逆のアプローチをとっていますが、目指すものは同じなんじゃないかなと思いました。
あと、こちらのインタビューとかは、本作を鑑賞する補助線としてめちゃくちゃ参考になると思います!
松原タニシさんという芸人が体験したことを書いた原作、ということを考え抜いて作られたということがすごく良くわかります!
そんなわけで、「怖さ」と「笑い」をどう両立するかという発想のもと作られた作品なわけですが、巷で言われている「怖ポップ」という言葉がピッタリだなと思いました。
序盤は主人公である山野ヤマメ(亀梨和也)が芸人として成功できない様子を丁寧に描いていきます。
中居大佐(瀬戸康史)とのコンビ《ジョナサンズ》として劇場でライブしても滑りまくるわ(劇中のコントが本当に笑えない感じなのもよかった)、唯一のファンの梓(奈緒)はちょっとストーカー気質だわで、本当に残念な様子。
で、この残念な感じをKAT-TUNの亀梨和也さんという超絶スターが演じているという!
そしてこの亀梨さんが”イケてない感じ”を体現していて素晴らしい!
背中がちょっと丸まっている感じとか、目がちゃんと開いてない感じとか、ボソボソ喋る感じとか、亀梨和也が本当にイケてない!!(褒めてます)
亀梨さんといえば『ジョーカーゲーム』『美しい星』でも良い演技を見せていて、特にジャニーズということもあって走り姿が本当に画になる人だなぁと思っていたのですが、本作で俳優としても新境地に踏み込んだのではないでしょうか。今後の活動が楽しみです!
あと、関西人としては関西弁が完璧というところも評価ポイントでした(笑)
で、なんだかんだ売れなくてジョナサンズは解散、テレビ番組のプロデューサー松尾(木下ほうか)に「事故物件に住んで心霊映像撮ってこい!」と事故物件に住むことになり、映画では4軒の事故物件を転々としていくお話になっております。
この辺からようやくホラー味が増して行くのですが、この”事故物件”の嫌な感じの撮り方はさすが中田監督といったところで。
これぞJホラー!といった、奥の暗闇に目がいくように設計された画面とか、不自然な位置からの撮影とか、嫌な予感の演出が見事でした。
特に良いなと思ったのは1軒目の赤い女と2軒目の設定。
1軒目の赤い女のJホラー感はもちろんなのですが、これが明るいところで、はっきり見えてもちゃんと気持ち悪く見えるというのはすごくよかったです。
あと、ここでコテコテのCGを使った演出があって「あれ?CG使ってちょっと怖さが半減したなぁ」と思うのですが、完全にこれは作り手からの「これはガチで怖いホラーファンに向けた作品じゃなくて、あまりホラーが得意じゃない人が対象のホラーだよ」というスタンスの表明なんだと思いました(笑)
2軒目に描かれる母と子の悲惨な暴力の背景もすごく嫌ですしめっちゃ怖いのですが、あの畳の染みとか風呂場の傷がね、、、
古い家なんかだとちょっと染みとか傷みたいなのあったりするから、こういうちょっとしたところに嫌なものを感じさせるのは伝統的なJホラー描写でよかったですね。
ちなみに僕は最近引越しをしたのですが、洗濯機置き場に謎の赤いっぽい染みがあって非常に嫌です。非常に嫌です。(大事なことなので2回)
3軒目はあっさりしたエピソードなのですが、不動産屋(江口のりこ)から教えられた「心理的瑕疵」と実際は違う事件が起きていた、というのはすごく不気味な感じでしたね。
ちなみに本作は、4つの事故物件を巡るある種オムニバスみたいな形式をとっているのですが、お話をまたぐために挟み込まれる間取り図が、この部屋は実在する、という雰囲気を出していていい感じに嫌な感じだったと思います。
1軒目で赤い女の呪いによって中居大佐が事故にあったり、2軒目でファンからスタイリストに翔鶴した梓がこれまた呪いによってひどい目にあったり、3軒目ではヤマメ自身が死にかけたりするのですが、どれも描写としては結構あっさりしています。
強いていえば、2軒目ははっきり襲われるのですが、そこでの梓演じる奈緒さんの演技テンションが異常でちょっと笑えるのもポイントになってますね。そこで溺れる時にそんな動きにはならんだろうという(笑)
奈緒さんがちょっとストーカー気味なのも怖い
で、いよいよ4軒目。中居大佐や梓の注意を無視して番組のため、そして自分が芸人として売れるために”最恐の事故物件”と不動産屋に紹介された物件に住むことになるヤマメ。
結構広い間取りに必要最低限の荷物と、撮影用のカメラという絵面もなかなかに気持ち悪い感じではあるのですが。
誰もいないはずなのに向かいのセンサーライトが点滅してたり、インターホンが鳴ったりと怪現象がバンバン起きる部屋、、、
にも関わらず、自分の成功を掴むため(そして慣れ)から全く臆せず、動画配信を始めるヤマメ!!そして起こる驚愕の怪奇現象!!
ということでこの4軒目。本当にすごいなと思ったのが、完全に笑わせる方向に振り切ったホラー演出がされていて。
巷では除霊バトルとか言われてますがまさにその通りで、次々と襲いかかってくる霊をカメラを回してとる撮影とかアベンジャーズかと思いました(笑)
ちなみにJホラーのメソッドではご法度とされている、”霊と人間を向かい合わせて横から撮る”というのもバッチリやっています。
こう言う感じの画ですね。西部劇とかの決闘シーンの撮影方法です。
編集もすっごくよくて、ここで起きている怪奇現象だけでも面白いのに、そこに編集でしょーもないギャグも挟み込まれるからどんどん笑いが加速していて。
もはや怖がらせることを考えていない演出に振り切っているのに驚きましたし、ここに来て先述した「ホラーをポップなエンタメとして機能させるための実験」という製作者側の意図がわかり、これはこれでめちゃ面白い!となったわけであります。
是非、このクライマックスを劇場で観ていただきたいなと思います(笑)
ぶっちゃけ僕は爆笑しました(笑)
しかし、ここで終わらないのが中田監督。
最後にちゃんとホラーのお土産を残して映画は終わります。
決して終わったわけじゃなく、ヤマメがこの生活を続けていくのなら、そこかしこに呪いはあるということを。
というわけで、ここまで褒めてきましたが、最後に少しばかり気になったことを。
111分というホラーとしては長めな尺なんだから、もっとヤマメの芸人としてのストーリー、とりわけ梓とのメロドラマは掘り下げられたんじゃないかと、いうことはどーでもよくて、、、
今回、ホラーと笑いの両立に挑戦したとあって、概ねバランスは上手くいっていたと思うのですが、ところどころ挟まれるギャグは本当にただのギャグで、映画のクオリティに寄与しているものとは思えなかった、端的にいえばサムかったです。
ゲスト出演的に出演していた芸人さんも、特に面白い場面はなく、ノイズでしかなかったと思います。
こういうところで結構、大事な”笑い”のテンションが削がれているように感じて、それは本当にもったいないなぁと感じました。
個人的には超楽しみましたし、2週連続興行収入1位ということで、ホラーファンとしてはホラーブームの再来を期待せざるを得ない状況も非常に嬉しいなと!
あまり大きな声で言いにくいご時世ですが、なるべくお友達と観にいっておおいに怖がって笑いながら観るのがオススメです!