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無知蒙昧のモノ語り

映画、音楽、本、雑感などなど好きなものを好き勝手に書いてます。

『ダゲレオタイプの女』〜映画感想文〜

新作映画 洋画 ホラー メロドラマ

※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

『ダゲレオタイプの女』(2016)

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 上映時間 131分

 監督・脚本 黒沢清

「岸辺の旅」で2015年・第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞を受賞した黒沢清監督が、オール外国人キャスト、全編フランス語で撮りあげた初の海外作品。世界最古の写真撮影方法「ダゲレオタイプ」が引き寄せる愛と死を描いたホラーラブストーリー。職を探していたジャンは、写真家ステファンの弟子として働き始めることになったが、ステファンは娘のマリーを長時間にわたって拘束器具に固定し、ダゲレオタイプの写真の被写体にしていた。ステファンの屋敷では、かつて首を吊って自殺した妻のドゥニーズも、娘と同じようにダゲレオタイプ写真の被写体となっていた過去があり、ステファンはドゥニーズの亡霊におびえていた。マリーに思いを寄せるジャンは、彼女が母親の二の舞になることを心配し、屋敷の外に連れ出そうとする。主人公ジャン役をタハール・ラヒム、マリー役をコンスタンス・ルソー、ステファン役をオリビエ・グルメがそれぞれ演じる。(以上、映画.comより)

 

 

 予告編

youtu.be

 

 

 永遠という幻想に魅せられた男たちと、献身を貫いた女の愛の物語。

 

 

 あの黒沢清監督がオールフランスロケ、外国人キャスト、全編フランス語で初の海外進出作品となれば観に行くしかない!!ということで鑑賞してまいりました。

 

 黒沢清監督といえば、本ブログでも今年公開の「クリーピー 偽りの隣人」を扱いました。

  その記事の中で、僕なりに黒沢作品の魅力を書いたのでそちらを参照していただければと思います。

heinoken.hatenablog.com

 

 つまり、微妙に仕組まれた違和感のディテール、それが積み重なっていき物語のある一点で別の世界と繋がってしまう。

 そして登場人物たちと一緒に別世界にどんどん引っ張られていく感覚や、日常の世界と別世界、現実と夢の境目がわからなくなっていく感覚、みたいなものが黒沢作品の魅力じゃないかと思っております。

 

 そういった作品の構造や、細かい違和感のディテールにハマるかどうかで黒沢作品の評価が分かれるのかなーとも思います。

 

 そして本作も、半透明のカーテン、少しだけ開いた扉、鏡越しの人物などほとんどの黒沢作品で出てくるモチーフが満載です。これだけでなんとなく画面から不吉さが滲み出てくるから凄いんですよ!

 

 色の使い方に関しても、枯れた庭と温室の綺麗な花、全体的にくすんだ色の風景に印象的に差し込まれる、赤青緑の鮮やかさなど、やはり2つの世界を意識させられます。(ちなみに深読みしすぎかもですが、赤青緑は光の三原色でこのあたりもなにかあるのかなぁとか、、、)

 

 ロケ地についても、パリ市内と郊外の境目を探し回って見つけたという面白い話がありまして、黒沢監督の境目を描くことへの意識が画面に出ています。

 オープニングの開発途上の町から屋敷へ歩いて向かうシーンの、どんどん人気がなくなっていく感じとか「これから何か不吉な場所へ行く」みたいな印象がありましたし、クライマックスのドライブも、破滅に向かう感じがして、ロケ地の効果が生きてたんだなーと思いました。

 

 あとなんといってもインパクトがある小道具は、本作の一番の目玉商品、拘束具ですね!(ジャパネッt、、、)これの拷問器具感たるや、、、 

 

 カチャカチャネジ締めていくわけですね

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 ざっくり説明しておくと、ダゲレオタイプというのは世界最古の写真撮影方法らしくて、露光時間が長いので被写体が動くとブレてしまうから、被写体を固定しなければならないというまぁ不便な撮影方法です。(不適切な表現)

 

 で、写真家ステファン(オリヴィエ・グルメ)はこれを使って過去には自分の妻を、妻が亡くなった後は娘のマリー(コンスタンス・ルソー)を撮影しているわけです。

 

 出来上がった写真がコチラ!

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 予告編でもチラッと見れるこのシーンが個人的には好きでして。完全に固定されたマリーの拘束具を外した瞬間、力が完全に抜けたマリーが倒れるというシーンなんですが、さっきまであった魂が一瞬にして無くなったという感じがしてゾッとする強烈なシーンでした。

 コンスタンス・ルソーさんの体の動きが凄いんですよね〜。人形みたいな感じで。

 

 で、マリーとイイ感じになったジャン(タヒール・ラハム)としては「こんなの狂ってるよ!」とマリーと屋敷から逃げるように画策しだします。

 そこに、ちょうどいいタイミングで「土地開発のために屋敷を売ってくれ」という話が舞い込んできて、これをステファンに提案。

 しかしステファンとしては、妻の幽霊に怯えながらも屋敷への執着が強いため、この話を拒否。

 

 そんな中、ある時ステファンが亡き妻の声を聞き、声を追いかけると妻の幽霊が。そこにマリーも加わり、、、というシーンがあるのですがここが素晴らしいです。

 

 声を聞いて妻を探すステファン、妻を見つけるステファン、父を探して部屋に入ってくるマリー、そして決定的なある事の顛末までをワンカットで撮影しているのですが、徐々に暗くなる照明だったり、明らかに死のメタファーであろう印象的な階段だったり、これぞ映画だ!というシーンで、本当にスリリングでした。

 

 その直後に、黒沢監督十八番のスクリーンプロセスを使った車のシーンがあったりして。この一連のシークエンスで「別の世界に連れて行かれる」という感覚があって、これぞまさに黒沢映画だという感じがしました。

 

 そこからは現実と幻想の境目が無くなっていき、結果的に悲劇的な展開になっていきます。

 しかし、悲劇的であるのと同時にとても美しいのが本作の魅力でもあります。

 

 終盤、ステファンが妻の亡霊と対峙するシーンがあるのですが、幽霊の姿が恐ろしいけど同時に見とれてしまうような不思議な印象がありました。

 ハイスピードカメラ映像と普通の速度の映像を並べたり、幽霊の顔を明るすぎる照明&ドアップで撮っていたり、斬新な映像の効果もあった気がします。

 

 また、一緒に住むことになったマリーとジャンの生活も意識的に暖色が配されたりしていてすごく暖かい、幸せな感じで撮られていてなんかロマンチック。

 だからこそのクライマックスの悲劇なのですが、観ていて本当に美しいんですよ。

 

 で、観終わった後の印象として、すごく黒沢監督の映画観を感じる映画だったなぁと。

 というのは、「カメラというものは被写体から物語やドラマをはぎ取ってしまうもの」であり、「そのカメラを使って物語を描こうとする映画」というものはそもそも破綻している、というようなことを黒沢監督がおっしゃっていて。(『黒沢清、21世紀の映画を語る』参照)

 本作のダゲレオタイプという題材が、まさにこの黒沢監督の映画観にピッタリじゃないかと思いました。

 

 ダゲレオタイプによって、「写真という作品」に女性を永遠に美しく固定しようとするステファンと、その被写体に惹かれてしまった故に幻想に取り憑かれることになるジャン。そして写真に撮られることで幻想に固定されたマリー。

 

 この二人の男がまるで、写真の連続によって「映画という幻想」を生み出す映画監督と、それに魅了されてしまった映画ファンに見えてきて、だんだん他人事じゃなくなってきてしまうぐらい僕はこの映画にハマりました(笑)

 

 なのでクライマックス、幻想から醒めてしまうシーンはその切実さに涙なしには見れませんでした。

 

 あと、やっぱりどうしてもヒッチコックの「めまい」を思い出しました。

 幻想に取り憑かれたジャンやステファンと、その幻想に付き合ってしまったマリーの関係が「めまい」におけるスコティとジュディと似ていますし、悲劇だけど官能的に美しい物語というところで、近いなぁと思いました。

 

 細かいことですとコンスタンス・ルソーさんの目の演技がすごいとか、グレゴワール・エッツェルの音楽がいいとか、最後のタヒール・ラハムさんの表情が素晴らしいとか、うまく言語化できませんでした(語彙の貧困さが露呈する文章)

 

 

 とにかく美しく不吉!映画的な魅力満載!そして紛うことなきフランス映画であり、紛うことなき黒沢映画!!

 映画という幻想に魅せられてしまった人たちに、オススメです!!

 

 

めっちゃ怖いのに不思議と暖かい気持ちになります。

岸辺の旅 [Blu-ray] 

未見ですが、本作と近いらしいので観たいですねぇ。

アンジェリカの微笑み [DVD]

 非常に読み応えのある本です!

黒沢清、21世紀の映画を語る