チャンタの映画感想ブログ

新作・旧作映画のレビューブログです。ネタバレはできるだけ避けています。

チャンタ的、大林宣彦監督入門&大林映画ベスト10【大林宣彦監督 追悼】

2016年12月1日に更新して以来、4年近く放置をしてきた本ブログを再開しようと思いたったのは2020年4月10日。

 

僕の最も敬愛する日本映画の巨匠、大林宣彦監督が亡くなりました。

 

「その日のあとで」、監督の作品を見返しながら、「映画」というものの面白さや不思議な魅力を教えてもらったのは大林作品であると再確認し、4年前のようにもっと映画と向き合う時間を作ろうと、このブログを再開させるに至りました。

 

で、1本目に何にしようと思った時に、ここはやはり、大林監督の「花筐/HANAGATAMI」を書きたい(このブログの最初の記事は「野のなななのか」でしたし)と書き出したところ、、、

heinoken.hatenablog.com

 

前提として「大林宣彦作品」とはどんなものなのかということを書く必要があると思いまして。いわゆる「普通の」映画とは違うので、、、

 

そんなわけで、勝手に大林作品入門として、僭越ながら僕なりのポイントを解説していこうと思います!

7月31日(金)には最新作にして遺作の「海辺の映画館—キネマの玉手箱」も控えておりますので、大林作品を鑑賞するときの補助線になれば、、、

www.youtube.com

 

 

 

ちなみに「2020年 映画秘宝7月号」町山智浩さんがわかりやすく解説されているので、そちらを読まれると超わかりやすいです!

 

という訳で僕が思う、大林作品のポイントを一言で言うと、、、

 

強い虚構性を含んだ、過剰な映像技巧とノスタルジー

 

ということですね。

1つずつ説明していきます!

 

●強い虚構性

まず、大林さんの映画哲学の根底に、「ウソから出たマコト」というものがあります。

つまり、「虚構の世界の先に、本質を浮かび上がらせることが芸術、アートの使命だ」という思いが強くあるんですね。

“戦争3部作”の「この空の花 長岡花火物語」の際に、ピカソの「ゲルニカ」を例に出して、「アートは不思議で面白くもあり、美しい」

「だからどんなに重たい、暗い、目を背けたい、忘れたいことでも忘れないのね」

と、インタビュー等で繰り返しおっしゃっておられました。

つまり、大林作品にいつもある強い虚構性の背景には、常に(戦争など)重たい現実が横たわっているんですね。

 

で、こういった「ウソ」を作り出すための手法として、過剰な映像技巧があるわけです。

 

●過剰な映像技巧

僕が初めて観た大林映画は「時をかける少女」でした。

初めて観たときの感想は、「めっちゃ変。だけど感動してるし、何に感動したのかわからない」という感想でした。

で、そこから大林さんの発言を追いかけたり、評論を読んだりしながら、大林映画に触れていったのですが。

きっと誰もが大林映画を見ると感じるのは、「演技、編集、合成、なんか全部が不自然」だと思うんです。

 

で、これは前述した通り、「ウソ」を作るために意図的に不自然にされているわけですが、例えば、演技についてこんなことをおっしゃっています。

 

女優の肉体を封じ込める。人間を描くということは生身の女優さんの生きた仕草を描写することではない。役という絵空事に生命感を与えること。」「夢の色、めまいの時」より)

 

実際、「野のなななのか」「花筐」、そして最新作の「海辺の映画館—キネマの玉手箱」に出演されている常盤貴子さんも、「演じていて気持ちいいというよりは難しい状況を作られちゃう」と語られていたりします。(「フィルムメーカーズ 20」より)

 

要は、映画において俳優というものは、監督の“良き素材”であり、そこに俳優が演技でもって情緒を入れてしまうと、観客の心が映画に入るための「余白」を奪ってしまうという考えなのです。

だから大林映画は、特に“少年少女”として出てくる俳優さんはかなり棒読み演技で、

観ているこっちとしてはとまどってしまう(笑)

“目線をずらした”カットバックや、チープな合成処理も、こういった「大林的虚構」を作り出すためのもの。

 

映画はそもそもウソなんだから、不自然に描くほうが自然だよね。

 

そういう哲学のもとに、大林映画はできています。

 

と、同時に「映画を観る前から作っていた」と自身でも語るように、大林さんにとって映画は“楽しいオモチャ”でもある訳です。

だから、「あれもできるし、これもできる!これはまだやってない!」と実験して、新たな試みにどんどんチャレンジしていく。その姿勢こそが、大林さんの「自分らしく自由であること」という哲学そのものでもあります。

僕なんかは、やはりその姿勢に惹かれるし、面白みを感じるわけであります。

 

じゃあ、そんな虚構世界を作り出して、何を描きたいのか…

なぜ大林映画はこんなに過剰に情緒的なのか…

 

●“忘れない”ということ

大林作品の印象として語られるのが「ノスタルジー」。

尾道三部作”“新尾道三部作”の印象もあるでしょうが、間違いなく大林作品は、ちょっと過剰すぎるくらい情緒的だったりします。(これによって引いてしまう場合もあるでしょうが…「はるか、ノスタルジィ」とか…)

 

映画の舞台の時代設定を曖昧にしていたり、その土地で撮っているのに、セットや合成で“その土地っぽい風景”を作り上げる。

これによって観客たちは「懐かしい」思いを植え付けられてしまう訳です。

という僕自身も、尾道映画祭で初めて尾道に訪れた時には、なんとなく懐かしい、故郷に帰ってきた気持ちになったりしたのですが(笑)

 

で、このノスタルジーってなんなのかというと、大林さん自身の“青春”だと思うんです。

虚構の世界を作って、それをノスタルジーで包んで、出来上がるのは監督が忘れたくない青春時代。

それは、戦争によって青春を失った人たちへの想いだったり、それを繰り返したくない想いの具現化だと思うのです。大林映画でよく死んだ人が普通にその辺を歩いたり喋ったりしているのはそのためです。

 

その、大林さんの“忘れないこと”に対する強い思いが、映画の持つメッセージ性の部分だけでなく、観客の個人的なノスタルジーや記憶と結びつくことで、我々にとっての大林映画が、忘れられない映画になるということなのでしょう。

 

以上、僕が考える大林映画のポイントを解説してみました。

先に挙げた、映画秘宝の解説だったり、色んな大林さんの書籍やインタビューがありますので、それらに触れることで、大林映画への理解を深められるのではないでしょうか。

 

じゃあ何から観たらいいんだ!と思われるかもしれないので、ここで個人的な大林映画ベスト10選を挙げておきます。

とはいえ、僕も自主制作時代のもの、商業映画時代のものの中で鑑賞できていないものもありますので、あくまで個人的な10選です(笑)

 

10位 理由  (2004年)

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宮部みゆきの原作。一家惨殺事件の謎を巡るミステリーなのですが、その被害家族が全員赤の他人で、、、そこから日本の闇を浮かび上がらせる作品。

107人の登場人物が次々に証言と再現を見せていくという語り口。

ラストの歌が強烈で耳から離れません(笑)

 

9位 その日の前に (2008年)

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余命わずかと宣告されたとし子(永作博美)と、夫の健大(南原清隆)の家族の物語。

いわゆる難病ものっぽいですが、この作品から現在の大林さんの“何でもあり”感が炸裂しだしていて、湿っぽくならない、人が大切な人の死を受け入れるまでの過程を描いた作品です。クラムボンの曲がいい!

 

8位 はるか、ノスタルジィ (1992年)

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10年ぶりに小樽にやってきた小説家・綾瀬(勝野洋)は自分のファンだという少女・はるか(石田ひかり)に出会い、二人で小樽を巡り始める。すると高校時代の綾瀬が姿を現して……というファンタジー作品。

はっきり言って、倫理的にアウト(笑)というロマンスなのですが、その正しくなさを美しく耽美的に描くのが大林監督。この作品が1番その濃度が濃く、忘れられない1本です。

 

7位 さびしんぼう  (1985年)

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尾道3部作”の最終作。寺の住職の一人息子・ヒロキ(尾美としのり)は、隣の女子校で放課後になるとショパンの『別れの曲』を弾く少女(富田靖子)に恋心を抱いていた。彼女を勝手に“さびしんぼう”と呼んでいたヒロキの前に、ある日、ピエロのような格好をして“さびしんぼう”と名乗る謎の女の子が現れ……という青春ファンタジー映画。

まぁ富田靖子が本当に美しい。これもよくよく考えたらギョッとするような映画なんですが、それがこんなに切なく響くとは、、、という作品です。

 

6位 転校生-さよならあなた- (2007年)

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名作「転校生」のセルフリメイク作品。斉藤一夫(森田直幸)は、転校してきた中学校で、幼なじみの一美(蓮佛美沙子)と再会。一夫と一美は、思い出の場所である“さびしらの水場”へ足を運ぶが、誤って転落してしまい、、、というお話。

この連佛美佐子の可愛さがただごとじゃないです(笑)

元の作品が「性」を題材にしたとしたなら、こちらは「生」がテーマ。

連佛さんが歌う「さよならの歌」が美しいです。

 

5位 転校生 (1982年)

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言わずと知れた名作。新海誠監督の「君の名は。」の元ネタですね。

大林作品の中でも1番見やすい一本だと思いますので、まずはこれから観るのがいいかも!

やっぱりラストの切なさがたまりません。

 

4位 花筐 (2017年)

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大林監督の直近の作品。大林全部のせ!的な作品であります。

僕の感想はこちらから。

heinoken.hatenablog.com

 

3位 HOUSE (1977年)

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大林監督商業デビューの作品。

夏休みを利用しておばちゃまの屋敷を訪れる“オシャレ”と6人の友人。だがおばちゃまは戦死した恋人への思いだけで存在し続ける生き霊だった。ピアノや時計が少女たちを次々に襲いかかり、、、というホラーですが、正直怖くないし、奇妙すぎてもはや笑えるのですが、この記事を読んでいただいた方には、この作品の本当の恐ろしさ、悲しさがわかると思います。

 

2位 長岡花火物語 (2012年)

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“戦争3部作の”1作目。新潟県長岡市で教師をしている元恋人の片山(高嶋政宏)から「戦争にはまだ間に合う」という創作劇と花火を見て欲しいという手紙を受け取った、新聞記者の玲子(松雪泰子)。長岡を取材していくうちに、長岡の戦争の歴史が浮かび上がってくる、、、というお話。

劇映画なのかドキュメンタリーなのかも曖昧で、怒涛の勢いで押し寄せる映像の波に完全にやられてしまう本作は、その後の大林映画に繋がる見事さです。

わけもわからないまま、とてつもなく感動させられます。

 

1位 時をかける少女 (1983年)

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こちらも言わずと知れたカルト的名作。前述のように初めて触れた大林作品で、この作品に「映画ってこんなに自由なんだ」と思わされた作品。

主演の原田知世さんの圧倒的魅力、映画の構造の多層性、そして生理的に感動させられる大林監督の映像マジック。後の「時かけ」作品が、この映画の影響から逃れられなくなるほどの凄みを持った作品です。傑作!!

 

 

いかがでしたでしょうか?

完全に個人的見解ですので、色々不足してる部分もあると思いますが(笑)

 

大林宣彦という映画作家がいかに唯一無二の存在であるかは、大林作品を体験していただかないと伝わらないですが、この記事がその一助になれば幸いだなと思います!

 

7月31日(金)公開、「海辺の映画館—キネマの玉手箱」はおそらく全人類必見の作品となっているので、ぜひ劇場で鑑賞しましょう!