チャンタの映画感想ブログ

新作・旧作映画のレビューブログです。ネタバレはできるだけ避けています。

『この世界の片隅に』〜映画感想文〜

※この記事は極力ネタバレしないように魅力を伝えようとしている記事です。

 

 

この世界の片隅に』(2016)

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 上映時間 126分

 監督・脚本 片渕須直

第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したこうの史代の同名コミックを、「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督がアニメ映画化。第2次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描く。昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた女性すずは、戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。それでもなお、前を向いて日々の暮らしを営み続けるすずだったが……。(以上、映画.comより)

 

 予告編

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『淵に立つ』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

 『淵に立つ』(2016)

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 上映時間 119分

 監督・脚本 深田晃司

「歓待」「ほとりの朔子」などで世界的注目を集める深田晃司監督が浅野忠信主演でメガホンをとり、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した人間ドラマ。下町で小さな金属加工工場を営みながら平穏な暮らしを送っていた夫婦とその娘の前に、夫の昔の知人である前科者の男が現われる。奇妙な共同生活を送りはじめる彼らだったが、やがて男は残酷な爪痕を残して姿を消す。8年後、夫婦は皮肉な巡り合わせから男の消息をつかむ。しかし、そのことによって夫婦が互いに心の奥底に抱えてきた秘密があぶり出されていく。静かな狂気を秘める主人公を浅野が熱演し、彼の存在に翻弄される夫婦を「希望の国」「アキレスと亀」の筒井真理子と「マイ・バック・ページ」の古舘寛治がそれぞれ演じた。(以上、映画.comより)

 

 予告編

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 「家族」を通して人間の「孤独」を描いた傑作

 

  以前、「角川映画祭」にて「時をかける少女」鑑賞時に、本作の予告編を観てから絶対に観ようと思っていた作品であります。

 お客さんの入りはまずまずだったのですが、退場する人全員が「何か深刻な顔」をしていたのが印象的でした。

 僕自身、鑑賞後しばらく精神が不安定になりました(心が弱い)

 

 結論から言えば、カンヌでの受賞も納得の傑作で僕も非常に楽しんだのですが、気安く人に勧められない作品です(是非観ていただきたいのは前提ですが…)

 

 というのもこの作品、119分の上映時間中ずっと地獄を見せられているような気分になるので、本当に見ていて辛いです(褒めてます)

 

 「あの男が来るまで、私たちは家族でした」というキャッチコピーなのですが、僕から言わせてみれば「あの男が来て、私たちは家族じゃなかったことがわかった」です。

 

 

 オープニング、娘の蛍(篠川桃音)がオルガンの練習をするショットから始まるのですが、画面の乾いた色調やメトロノームの音が不穏な感じで素晴らしいアバンタイトル

 

 そこから家族の食事のシーンになるのですが、章江(筒井真理子)と蛍の会話に全く入らない利雄(古舘寛治)の様子から、すでにこの家族は壊れているという雰囲気に満ちています。

 その後、八坂(浅野忠信)がやってくるのですが、周りの景色から完全に浮いた真っ白なシャツを着て登場します。

 

 背筋も伸びてて真面目そう

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 見るからに何かあると感じさせる登場シーンですが、そこからの利雄との会話で八坂は出所してきたばかりであることがなんとなく示されます。

 

 こんな感じで本作は全編通して、何気ない会話や色の演出でキャラクターを説明していくという非常に映画的な見せ方がされていて、なおかつ役者さんの演技のニュアンスで会話の内容と人物の感情が一致していないように見せられたりして、本当に巧みなあたりだと思いました。

 

 特に浅野忠信さんと古舘寛治さんの「何考えてるかわからない感」がすごいです。

 

逃げ恥のバーのマスターは表情豊かですね 

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 浅野さん演じる八坂はすごく丁寧で真面目な人だと思ってたら乱暴になったり、普通のこと話してても表情が読めなかったり。

 古舘さん演じる利雄も無口で淡々としてるんですが、八坂に対しては親しげに会話してて、でもなんとなく裏がありそうな感じで、という微妙なニュアンスが入った演技で、お二方とも流石と言うしかないです。

 ってか浅野さん自体、何考えてるかわからない感ありませんか?(失礼な文章)

 

 その八坂が章江に自分の犯した罪を独白するシーンから物語が大きく動き出すのですが、この独白シーンのインパクトたるや。

 八坂が自分の罪を懺悔するのをアップで捉えているのですが、環境音がどんどん消えていって、ゆっくりクローズアップ、背景もほとんど見えないようにピントが外れていくという演出で、こちらがどんどん八坂に引き込まれていく感じになっています。

 

 で、敬虔なクリスチャンの章江も八坂の懺悔を聞いて引き込まれてしまうわけです。

 その結果、章江と八坂は"イイ感じ"になっちゃたりしちゃったりします。まぁ章江的にも無口なパッとしない髭面の利雄より清潔感のあるイケメンのほうに惹かれるよなとも思いました(非常に失礼な文章)

 

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 さらに八坂はオルガンも弾ける系男子ですので蛍も八坂に懐いていきます。

 

 こんな感じでこの一家が八坂によってバランスを失っていく中で、徐々に八坂の本性が明らかになっていきます。

 この八坂の本性が出てくる場面で、必ず赤色が出てくるのもうまい演出だなぁと。

 赤いバラ、赤いTシャツ、赤いランドセル、赤い橋、、、と、その後の展開で八坂の影を思い出す装置にもなっていて見事な演出だと思いました。

 

 特に物語のターニングポイントとなる決定的な事件での赤色演出は素晴らしいです。

 真っ白なツナギを着た八坂がジッパーを下ろしてツナギを脱いだ瞬間、真っ赤なTシャツが出てくる。八坂の暴力性を映像的に見せていて巧みですし、何より観てるこっちがハッとしてしまう見事な演出でした。

 

 で、決定的なある事件が起きた後の後半は、本当に地獄を見せられているような気分でした。

 八坂が不在の空洞になり、そこに翻弄され続ける壊れた家族。無口な利雄はよく喋るようになり、壊れたはずなのに夫婦の会話が増えていく何か居心地の悪さ。

 全ての日常的な風景が、何かイビツに見えてきて心底恐ろしいなと感じました。

 

 そしてこの後半、章江を演じる筒井真理子さんの演技が本当にすごい。ってかこの映画で素晴らしくない役者さんはいません!!!

 まず、月日が経ったことが一目でわかる筒井真理子さんの見た目。デニーロアプローチならぬ真理子アプローチです!老けっぷりがすごい!(褒めてます)

 

 悲惨な事件と八坂の失踪により完全に病んでしまった章江ですが、観ていて本当に辛い。未だ状況を受け止めきれず、なんとか普段通りの生活をしようとしている章江の不安定さに「この人いつ自殺してもおかしくないぞ」と、めっちゃハラハラさせられます。

 

 そこから新しい従業員の孝司(大賀)が絡んできてクライマックスになだれ込んでいくのですが、事ここに至って「なんでこんなことになった」と感じるわけです。

 

 本作ではある2つの事件の真相が観客に示されません。それはつまり「あの時こうしていれば」という時の、決定的な「あの時」がわからない状態で物語が進んでいくので、観客も登場人物も根本的な解決策がわからないという状態に陥るわけです。

 

 これによってもはや取り返しがつかない状況の悲惨さを感じさせられるので、観終わった後も胸がキリキリして、結果的に僕は若干体調が悪くなりました(笑)

 

 クライマックス、章江が見る夢の切実さや幻想的な蛍のシーンも映画的な想像力の飛躍を感じる素晴らしいシーンですし、文字通り"淵に立つ"八坂の不気味な表情に心底ゾッとします。

 

 そしてラストの利雄のアクション。利雄の罪と罰なのか、あるいは人間が本質的に抱える孤独への希望的な回答なのか。

 鑑賞後一ヶ月経っても未だにわからないですが、後者であってほしいと思います。

 

 エンドロールに流れる主題歌も素晴らしいですし、脚本、演出、演技、どこをとっても一級品でした!

 あと、パンフレットも素晴らしいです!充実したインタビューもさることながら、なんと第一稿のプロットと、決定稿のシナリオが載っています!これで800円は安すぎる!!

 非常に重たい作品ですし、鑑賞後、色々考えてしまう映画ですが、所謂"後味の悪い映画"とは一線を画した大傑作だと思います!

 

 僕がモタモタしてた間に上映館数が減ってきていますが、映画館という集中できる環境で人間の心の闇の淵に立って頂きたいので、是非映画館でご鑑賞ください!おすすめです!!

 

 

 

小説版の帯文は二階堂ふみ

淵に立つ

深田監督作のこちらも観てみようと思います

 

歓待 [DVD]

 

この主題歌も素晴らしかった!

 

Lullaby

『ダゲレオタイプの女』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

ダゲレオタイプの女』(2016)

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 上映時間 131分

 監督・脚本 黒沢清

「岸辺の旅」で2015年・第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞を受賞した黒沢清監督が、オール外国人キャスト、全編フランス語で撮りあげた初の海外作品。世界最古の写真撮影方法「ダゲレオタイプ」が引き寄せる愛と死を描いたホラーラブストーリー。職を探していたジャンは、写真家ステファンの弟子として働き始めることになったが、ステファンは娘のマリーを長時間にわたって拘束器具に固定し、ダゲレオタイプの写真の被写体にしていた。ステファンの屋敷では、かつて首を吊って自殺した妻のドゥニーズも、娘と同じようにダゲレオタイプ写真の被写体となっていた過去があり、ステファンはドゥニーズの亡霊におびえていた。マリーに思いを寄せるジャンは、彼女が母親の二の舞になることを心配し、屋敷の外に連れ出そうとする。主人公ジャン役をタハール・ラヒム、マリー役をコンスタンス・ルソー、ステファン役をオリビエ・グルメがそれぞれ演じる。(以上、映画.comより)

 

 

 予告編

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 永遠という幻想に魅せられた男たちと、献身を貫いた女の愛の物語。

 

 

 あの黒沢清監督がオールフランスロケ、外国人キャスト、全編フランス語で初の海外進出作品となれば観に行くしかない!!ということで鑑賞してまいりました。

 

 黒沢清監督といえば、本ブログでも今年公開の「クリーピー 偽りの隣人」を扱いました。

  その記事の中で、僕なりに黒沢作品の魅力を書いたのでそちらを参照していただければと思います。

heinoken.hatenablog.com

 

 つまり、微妙に仕組まれた違和感のディテール、それが積み重なっていき物語のある一点で別の世界と繋がってしまう。

 そして登場人物たちと一緒に別世界にどんどん引っ張られていく感覚や、日常の世界と別世界、現実と夢の境目がわからなくなっていく感覚、みたいなものが黒沢作品の魅力じゃないかと思っております。

 

 そういった作品の構造や、細かい違和感のディテールにハマるかどうかで黒沢作品の評価が分かれるのかなーとも思います。

 

 そして本作も、半透明のカーテン、少しだけ開いた扉、鏡越しの人物などほとんどの黒沢作品で出てくるモチーフが満載です。これだけでなんとなく画面から不吉さが滲み出てくるから凄いんですよ!

 

 色の使い方に関しても、枯れた庭と温室の綺麗な花、全体的にくすんだ色の風景に印象的に差し込まれる、赤青緑の鮮やかさなど、やはり2つの世界を意識させられます。(ちなみに深読みしすぎかもですが、赤青緑は光の三原色でこのあたりもなにかあるのかなぁとか、、、)

 

 ロケ地についても、パリ市内と郊外の境目を探し回って見つけたという面白い話がありまして、黒沢監督の境目を描くことへの意識が画面に出ています。

 オープニングの開発途上の町から屋敷へ歩いて向かうシーンの、どんどん人気がなくなっていく感じとか「これから何か不吉な場所へ行く」みたいな印象がありましたし、クライマックスのドライブも、破滅に向かう感じがして、ロケ地の効果が生きてたんだなーと思いました。

 

 あとなんといってもインパクトがある小道具は、本作の一番の目玉商品、拘束具ですね!(ジャパネッt、、、)これの拷問器具感たるや、、、 

 

 カチャカチャネジ締めていくわけですね

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 ざっくり説明しておくと、ダゲレオタイプというのは世界最古の写真撮影方法らしくて、露光時間が長いので被写体が動くとブレてしまうから、被写体を固定しなければならないというまぁ不便な撮影方法です。(不適切な表現)

 

 で、写真家ステファン(オリヴィエ・グルメ)はこれを使って過去には自分の妻を、妻が亡くなった後は娘のマリー(コンスタンス・ルソー)を撮影しているわけです。

 

 出来上がった写真がコチラ!

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 予告編でもチラッと見れるこのシーンが個人的には好きでして。完全に固定されたマリーの拘束具を外した瞬間、力が完全に抜けたマリーが倒れるというシーンなんですが、さっきまであった魂が一瞬にして無くなったという感じがしてゾッとする強烈なシーンでした。

 コンスタンス・ルソーさんの体の動きが凄いんですよね〜。人形みたいな感じで。

 

 で、マリーとイイ感じになったジャン(タヒール・ラハム)としては「こんなの狂ってるよ!」とマリーと屋敷から逃げるように画策しだします。

 そこに、ちょうどいいタイミングで「土地開発のために屋敷を売ってくれ」という話が舞い込んできて、これをステファンに提案。

 しかしステファンとしては、妻の幽霊に怯えながらも屋敷への執着が強いため、この話を拒否。

 

 そんな中、ある時ステファンが亡き妻の声を聞き、声を追いかけると妻の幽霊が。そこにマリーも加わり、、、というシーンがあるのですがここが素晴らしいです。

 

 声を聞いて妻を探すステファン、妻を見つけるステファン、父を探して部屋に入ってくるマリー、そして決定的なある事の顛末までをワンカットで撮影しているのですが、徐々に暗くなる照明だったり、明らかに死のメタファーであろう印象的な階段だったり、これぞ映画だ!というシーンで、本当にスリリングでした。

 

 その直後に、黒沢監督十八番のスクリーンプロセスを使った車のシーンがあったりして。この一連のシークエンスで「別の世界に連れて行かれる」という感覚があって、これぞまさに黒沢映画だという感じがしました。

 

 そこからは現実と幻想の境目が無くなっていき、結果的に悲劇的な展開になっていきます。

 しかし、悲劇的であるのと同時にとても美しいのが本作の魅力でもあります。

 

 終盤、ステファンが妻の亡霊と対峙するシーンがあるのですが、幽霊の姿が恐ろしいけど同時に見とれてしまうような不思議な印象がありました。

 ハイスピードカメラ映像と普通の速度の映像を並べたり、幽霊の顔を明るすぎる照明&ドアップで撮っていたり、斬新な映像の効果もあった気がします。

 

 また、一緒に住むことになったマリーとジャンの生活も意識的に暖色が配されたりしていてすごく暖かい、幸せな感じで撮られていてなんかロマンチック。

 だからこそのクライマックスの悲劇なのですが、観ていて本当に美しいんですよ。

 

 で、観終わった後の印象として、すごく黒沢監督の映画観を感じる映画だったなぁと。

 というのは、「カメラというものは被写体から物語やドラマをはぎ取ってしまうもの」であり、「そのカメラを使って物語を描こうとする映画」というものはそもそも破綻している、というようなことを黒沢監督がおっしゃっていて。(『黒沢清、21世紀の映画を語る』参照)

 本作のダゲレオタイプという題材が、まさにこの黒沢監督の映画観にピッタリじゃないかと思いました。

 

 ダゲレオタイプによって、「写真という作品」に女性を永遠に美しく固定しようとするステファンと、その被写体に惹かれてしまった故に幻想に取り憑かれることになるジャン。そして写真に撮られることで幻想に固定されたマリー。

 

 この二人の男がまるで、写真の連続によって「映画という幻想」を生み出す映画監督と、それに魅了されてしまった映画ファンに見えてきて、だんだん他人事じゃなくなってきてしまうぐらい僕はこの映画にハマりました(笑)

 

 なのでクライマックス、幻想から醒めてしまうシーンはその切実さに涙なしには見れませんでした。

 

 あと、やっぱりどうしてもヒッチコックの「めまい」を思い出しました。

 幻想に取り憑かれたジャンやステファンと、その幻想に付き合ってしまったマリーの関係が「めまい」におけるスコティとジュディと似ていますし、悲劇だけど官能的に美しい物語というところで、近いなぁと思いました。

 

 細かいことですとコンスタンス・ルソーさんの目の演技がすごいとか、グレゴワール・エッツェルの音楽がいいとか、最後のタヒール・ラハムさんの表情が素晴らしいとか、うまく言語化できませんでした(語彙の貧困さが露呈する文章)

 

 

 とにかく美しく不吉!映画的な魅力満載!そして紛うことなきフランス映画であり、紛うことなき黒沢映画!!

 映画という幻想に魅せられてしまった人たちに、オススメです!!

 

 

めっちゃ怖いのに不思議と暖かい気持ちになります。

岸辺の旅 [Blu-ray] 

未見ですが、本作と近いらしいので観たいですねぇ。

アンジェリカの微笑み [DVD]

 非常に読み応えのある本です!

黒沢清、21世紀の映画を語る

 

『何者』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています。

 

 

 『何者』(2016)

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 上映時間 97分

 監督・脚本 三浦大輔

桐島、部活やめるってよ」の原作者として知られる朝井リョウが、平成生まれの作家として初めて直木賞を受賞した「何者」を映画化。就職活動を通して自分が「何者」であるかを模索する若者たちの姿を、佐藤健有村架純二階堂ふみ菅田将暉岡田将生山田孝之という豪華キャストの共演で描いた。監督・脚本は、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「愛の渦」といった映画でも高い評価を得ている演劇界の鬼才・三浦大輔。演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人。何も考えていないように見えて、着実に内定に近づいていく光太郎。光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら、焦りを隠せない隆良。22歳・大学生の5人は、それぞれの思いや悩みをSNSに吐き出しながら就職活動に励むが、人間関係は徐々に変化していく。(以上、映画.comより)

 

予告編

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 「何者」でもないやつらの就活ミステリー劇場

 

 

 「桐島、部活やめるってよ」そしてハロオタの僕としては、Juice=Juiceが主演を務めたドラマ「武道館」の朝井リョウ原作の本作。

 誠に申し訳ないのですが、朝井リョウさんの本は全く読んだことがなく、さらには三浦大輔監督作品も観たことがありません、、、

 なので「あー今っぽい題材で若手俳優集めた映画かぁ」と完全にナメておりました(失礼な態度)

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 結論から言うと、めちゃくちゃ面白かったしすげー痛かったです。

 

 周到に張られた伏線にもまんまと引っかかったし、演出面でも序盤と終盤で照明の使い方を変えていたり、なにより終盤の舞台を使った演出の見事さに圧倒されたり。とにかく細部まで丁寧に作られている印象でした。

 

 キャスティングも素晴らしくて、おそらく役者本人のイメージ込みのキャスティングなのですが、全員が役にハマっていて実際にそういう人にしか見えないという。

 菅田将暉さんのちょっと軽いけどイイやつな感じとか、有村架純さんの真面目優等生のイイ子な感じとか、岡田将生さんの「俺はちょっと違うんだよねぇ(笑)」感とか(褒めてます)、二階堂ふみの「意識高い大人な私」感とか(褒めてます)、とにかくバッチリで。そしてあの佐藤健さんの「普通のやつ」感。めっちゃイケメンなのにあの凡人感。驚きました。前述した鑑賞前の自分の失礼な態度に腹が立ちますね。。。

 

 

 

 で、感想を一言で言えば「観ていて気まずいからやめてくれ!!」と叫びたくなるような映画でした。

 

 いわゆる「就職活動」的な合同説明会の様子やグループディスカッション、そして面接試験での「一分間で自分を表現してください」という面接官の質問とそれに答える就活生。その雰囲気のリアリティはすごく出ていたと思います。

 

 それこそ就活最前線に立っていた友人なんかは「これはある意味ホラーだった」というほどのもので、そんなに就活に熱心に力を入れていたわけでは無い僕でさえ、「え、あいつが内定!?」っていうよく考えたら失礼な驚きとか、「黙って受けたら知り合いがいて、しかも自分は落ちて相手は受かった」みたいなことは身に覚えがあって、観ていてすごく気まずい気分になってくるという。

 

 まぁ友達の少ない僕としては、序盤、理香(二階堂ふみ)の部屋を「就活対策本部」として、みんなで集まってエントリーシート書いてる様子とかご飯食べてる様子を見て「なんだこいつら、リア充やんけ!」と思っていたわけですよ。

 めっちゃ羨ましい学生生活感

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 でも同時に、分析家でもある拓人(佐藤健)が冷静にちょっと皮肉っぽく何かを言うとちょっと空気がピリつく感じとかそれだけでちょっとサスペンスフルでよかったですね。

  こういう表面上だけのコミュニケーションというのは「桐島〜」にもあった描写なので、朝井リョウさんの得意とする部分なんですかね。

 

 そんな感じで登場人物たちが見事に就活地獄にハマっていく様子もいたたまれなくなってくるんですが、なにより本作の「痛い」部分は現代的なディスコミュニケーションとそれによって肥大した承認欲求の取り扱い方だと思うんですね。

 

 

 SNSによって情報の入手が手軽になったり「繋がりを作る」ことが簡単になってすごく便利になった反面、その情報によって自分を他人と比較することも簡単になった時代。ましてやSNSを使っていると、自分が他人からどう見られているか気になりやすくもなりました。

 

 そんな中で、自分に拠り所が無い時に「自分より価値がありそうな人」を見てしまうと、自分の価値がわからなくなることは多かれ少なかれあると思います。

 

 「自分は何者でも無い」というコンプレックス、膨れ上がった自意識から「自分より価値がありそうな人」に対して批評的な態度をとったりしてしまう。そのことで、視野が狭くなって他人への想像力が持てなくなる。

  これこそが決定的にコミュニケーション不全にさせることであり、自分の「何者でもなさ」を自分に突き刺すことであると、まざまざとこの作品に再確認させられました。

 

 だからこそ、そんな自分を文字通り客観的に見られてしまう終盤のある展開の痛々しさたるや。

 

 それまでの就活の様子をドキュメンタリー風に撮っていただけに「演劇」を使ったこの展開が、演劇性が増していくごとに痛々しさがドライブしていく感じなんかが「意地悪だなぁ〜」と思いました。

 

 ただそこで終わったらただの後味悪い作品なんですが、ここからちょっと背中を押してくれるようなラストになってる部分がよかったですね。

 

 作中で就活うまくいった組はというと、「大切な何か」を持っている人なんです。

 何かを諦めながら、それでも自分が一番「大切だと思うモノ」と繋がっていようとして自分の道を選んだ人たち。だからこそ他人にどう思われようが自分の価値を見失わずに進めるし、他人に対しても同じ眼差しで見ることができたわけですね。

 

 そこに照れずに向き合って自分を見つめたことで、文字通り「世界が開けていく」ラストショットは本当に感動しました。

 

 

 ここまで誉めといてなんですが、あえて言うと前半はもうちょっとテンポ良くできたんじゃないかとか、拓人が割と最初からちょっと嫌なヤツ感出てて、しかも受け身なキャラなため感情移入しづらくて勿体無いなぁとか思いました。

 

 個人的には試験に遅刻しそうになってめっちゃ急いで走っていく理香と、終盤、理香が「そうでもしないと立ってられないからぁ、、、」と泣き崩れるシーンにグッときました(ただの二階堂ふみファン)

 

 

 わかりやすく面白い作品ではないですし、これでもか!という程身につまされるシーンがてんこ盛りで居心地が悪い感触もありますが、非常に普遍的な、おそらく誰しもが経験したことのある話だと思いました。

 中田ヤスタカさんと米津玄師さんの音楽も良いですし、劇場に来てしまった就活生の「うわぁ、、つらぁ」という声も聞けるので、是非映画館でご鑑賞ください!

 

 

原作も面白そうですね

何者 (新潮文庫)

外伝的な短編集。気になる、、、

何様

 

観たことないんですが気になる、、、

就職戦線異状なし [VHS]

『ヤング≒アダルト』〜映画感想文〜

※この記事はちょっとだけネタバレしています

 

 

ヤング≒アダルト』(2012)

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上映時間 90分

監督 ジェイソン・ライトマン 脚本 ディアブロ・コーディ

「JUNO ジュノ」の監督ジェイソン・ライトマン&脚本家ディアブロ・コーディのコンビが、主演にアカデミー賞女優シャーリーズ・セロンを迎え、再タッグを組んだコメディドラマ。児童小説家のメイビスは、夫と離婚後すぐに故郷ミネソタに帰ってくる。そこで、かつての恋人バディに再会し復縁しようとするが、バディにはすでに妻子がいて……。共演は「ウォッチメン」のパトリック・ウィルソン。(以上、映画.comより)

 

 

予告編

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 高飛車勘違い女のイタすぎる等身大コメディ

 

 

 MADMAXでのフュリオサが記憶に新しいシャーリーズセロン主演のコメディ映画。

 「JUNO」「マイレージ、マイライフ」など、毎回良作を作っているジェイソンライトマン監督作品の中でも、本作は僕が生涯ベスト級に好きな作品でして、めちゃくちゃ落ち込んだ時に見返しては号泣、という作品であります。(個人的すぎる文章)

 

 

 ジェイソンライトマン監督といえば、長編デビュー作「サンキュー・スモーキング」以降、世間的にはあまり良いとされていない境遇の人物を主人公に置いた作品を作ってきています。(「とらわれて夏」「ステイ・コネクテッド」は未見です、、、)

 

 その設定というのはトラジコメディと呼ばれるジャンルと非常に相性がいい。

 要は、「本人が自分の境遇をなんとか打開、もしくは自己正当化しようと四苦八苦している姿を客観的に見て笑う」という構造にしやすい設定です。

 それを客観的な視点をなるべく排し、悲劇的に見せたのが以前ポストした「フォックス・キャッチャー」だったと思います。

 

 

heinoken.hatenablog.com

 

 

 本作の主人公メイビスは、あらすじには「児童小説家」とありますが、実際にはヤングアダルト小説(日本でいうラノベ的なもの)ゴーストライターをしています。

 

 しかもどうやら、自分の華々しい過去や現在の心情を元にして小説を書いているというのが冒頭で示されます。

 

 パッとしない生活、イイ男とも出会えない、おまけに仕事の小説も打ち切られそう。

 そんな中、学生時代に付き合っていた元彼から結婚式の招待状が届き、、、というところから物語が始まります。

 

 元彼との思い出のカセットテープと犬ととびっきりの勝負服をバッグに詰めて故郷に帰るというオープニングシーンなのですがこれが最高でして。

 元彼との思い出の曲を何回も繰り返し聞いてアゲていく感じとか苦笑いしながらも、うわぁやったことある、、、みたいに感じますし、ってか華々しいあの頃を思い出すためだけにその曲を聴くとかやったことないですか!?(笑)

 

 と、同時にそれは「カセットテープ」という過去の産物であり、しかもそっちのほうが現在より美しく動き続けている、という見事なオープニングシーンだったと思います。

 

  コメディ的な演出に編集と劇伴も相俟って、前半はかなりテンポよく進むのでワクワクしながらこのどうしようもない主人公の行動を見守っていけます。

 

 で、故郷に帰ったところでもう1人の主人公とも言える同級生のマット(パットン・オズワルド)と出会います。

 デブでオタクな彼はメイビスとは逆に学生時代いじめられていて、下半身が不自由になっています。マットもまた高校時代の(最悪の)思い出に囚われている人間です。

 

 つまりこの2人は表裏一体の存在として描かれていて、マットからの視点を通じて観客はメイビスのしょうもなさと切実さを理解していくことになります。

 

 酔った勢いで自分と元彼が運命(笑)で繋がっていることを話すメイビスに、マットは元彼が既婚者だからその考えは良くないと、至極真っ当(笑)な意見を言います。で、おそらくメイビス自身も半分それをわかっているからこそマットと打ち解けて行きます。

 その後もメイビスとマットが2人で会話するシーンがあるのですが、メイビスが彼に気を許して話している様子、そしてこの2人の価値観が故郷の町の人間と合わないというのが示されて行きます。たとえそれが元彼であったとしても。

 

 メイビスが元彼のバディ(パトリック・ウィルソン)に再会するシーンで、バディはマットのことを悪びれる様子もなく「あぁ、ゲイのあいつね」みたいに言うのですが、そこでメイビスは2回も「彼はゲイじゃないわよ」と言います。

 

 象徴的に使われる学生時代の思い出の「大人サイダー」をバディが飲まないという行動から、バディは大人になってメイビスはまだ子供のままということが示されるのと同時に、自ら価値観や環境になんの疑問も持たず大人になったバディの無神経さを描いた印象的なシーンだと思います。

 

 

 それが物語的によく表れているのが、バディが奥さんのアマチュアバンドのライブにメイビスを誘うシーンです。

 元彼に誘われたこともあり、学生ノリでバディとテキーラを煽って上機嫌のメイビス(笑)

 いざバンドの演奏が始まると奥さんがバディへの思いを語り、、、というシーンなんですが、いくらなんでもメイビスには酷すぎる仕打ちです。バディも嬉しそうにノリノリで演奏を楽しんでるし(笑)

 

 もちろん本人たちに悪気はないし、むしろメイビスが勝手にショックを受けるシーンなんですがバディ、お前せめてちょっと気まずい感じ出しとけや!!となりました(笑)

 

 そんな調子で、故郷に住んでいる登場人物は、メイビスやマットのように”ある価値観"に適応できなかった人たちの人生"に対して少しだけ無神経であることが描写されます。

 

 両親はメイビスがアルコール中毒かもしれないと相談を持ちかけても「自分の子供に限ってそんなことはないだろう」と相手にしなかったり、悪気はないけれどもメイビスが離婚した時の元夫の話をしたり。

 

 しかし、メイビスはまだ諦めません(笑) バディとの再会で止まっていた執筆も進み、華々しい人生を取り戻そうとしています。

 勘違いっぷりも進み、Macy’s(日本でいうイオン的なスーパー)で「マークジェイコブスはないの??」とか本屋で「サインいる??」とか言って相変わらず調子に乗っています。

 

 そんな状態なので、その後マットとの森での会話で最後通告的に言われる「大人になれよ」という言葉に耳を貸さぬまま、クライマックスに向かいます。

 

 クライマックス、バディ夫妻の子供の命名式に招待されたメイビスですが、これが目も当てられない展開になります。

 

 はっきり言ってメイビスの馬鹿っぷりが極に達するシーンなのですが、そこで明かされるメイビスのある真相を聞くと、やっぱり周囲の人間はちょっと無神経すぎるだろうと。

 

  もちろんメイビスは最低なやつです。自分の人生を肯定するために他人の人生を壊そうとしているダメな人です。

 ですが、彼女が狂ったのにも理由がなくはないなと思います。

 

 だからこそ、その後の惨めすぎるベッドシーンの切実さと、そこで示される「客観的に見たメイビスの過去」にハッとさせられます。(あとこれは余談ですが、シャーリーズセロンのヌーブラが最高です。)

 

 

 そしてラスト、色々あって心身ズタボロのメイビスですが、主人公がストレートに改心はしないというジェイソンライトマン節が効いてて最高のシーンです(笑) 爆笑必至なので、これは是非見て頂きたいシーンですね。

 でも、この懲りない女っぷりが逆に清々しくて、「もうお前はそれでいいよ!そのまま行けよ!」と元気をもらえるシーンでもあります。

 

 「あの時こうしてれば」という後悔や「ちゃんと環境に適応できる大人」になれないことから現在の自分を肯定したくて華々しい思い出を引きずったりすることは、たとえそれが馬鹿げた、子供じみたことだと半分わかっていても、あると思います。

 

  しかしその自覚があればこその成長であり、ラストに写される”あるモノ”が象徴するポンコツだけどまだ動ける」というシーンに胸を打たれます。

 

 

 冒頭で書いた通り、本作は僕の生涯ベスト級作品なわけですが、これは当時の自分の状況からメイビスが他人事に思えなくて、ガンガンに感情移入してしまったからなんですね。

 でも、メイビスに多少なりとも共感する部分は誰しもあると思いますし、なにより現実では絶対に関わりたくないような最低の主人公の人生に感動してしまう、というのはフィクションならではの素晴らしい魅力だと思います。

 

 ポスターとか予告編から想像するポップなコメディではないですし、主人公のダメさっぷりに呆れる人もいるかと思いますが、笑えて、泣けて、場合によっては胸に刺さりまくる素晴らしい作品だと思います!

 

 是非、ご鑑賞ください!オススメです!!

 

 

エレン・ペイジが最高!

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メイビスとマットの関係から連想しました。

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