『この世界の片隅に』〜映画感想文〜
※この記事は極力ネタバレしないように魅力を伝えようとしている記事です。
『この世界の片隅に』(2016)
上映時間 126分
監督・脚本 片渕須直
第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したこうの史代の同名コミックを、「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督がアニメ映画化。第2次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描く。昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた女性すずは、戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。それでもなお、前を向いて日々の暮らしを営み続けるすずだったが……。(以上、映画.comより)
予告編
明るく可愛く笑える、”この世界の片隅”の物語
公開前からSNS等で話題沸騰になった本作。公開初日に、、、と思ったのですが近所の上映館は全回満席だったので、公開2日目に観に行ってまいりました。
ですが2日目でも最終回まで満席、僕の観た最終回も立ち見ありの文字通り超満員で、すごいことになってるなと思いました。
その後、日本語字幕上映と通常上映を1回ずつ、計3回鑑賞してまいりました。
どの回も満席、来月からの上映館数も増えたみたいで、これから色んな人の元へ届くと思うと胸が熱くなりますね、、、
いきなりですが結論を言います。
大傑作です!まだ未見の方は今すぐ近所の映画館の席を予約してください!!オススメです!!
はい。とりあえず結論は言いましたので、何も情報を入れたくない方は閉じて頂いてお近くの映画館の座席を予約してくださいね!笑
「アリーテ姫」「マイマイ新子と千年の魔法」などの片渕須直監督ですが、お恥ずかしながら僕は本作が初めての片渕須直作品でした。
さらにお恥ずかしいことに、こうの史代さんの原作も未読という不勉強さでございます。。。(原作はamaz○nでポチりました)
なので片渕監督の作家性とか原作のエッセンスについてはわからないですので、あくまでアニメーション映画「この世界の片隅に」を観て感じたことを書いていきたいと思います。
まず、とにかく「アニメーション」という表現の魅力、「気持ち良さ」みたいなものが満載の映画です!
本来は「ただの絵の連続」でしかないのに、その動きや表情から「確かにそこに生きている」という風に感じられるのがアニメの魅力だと僕は思っているのですが、本作はその点において圧倒的なクオリティです。
「普通の日本のアニメーションは、なるべく原画と原画の間をつなぐ『中割り』を省略して作画枚数を節約しながら、動きの溜めとか緩急のある、キレがよくてカッコいい動きに感じられるような表現がどんどん追求されてきました。(中略) でもそれに対して人間は動きの幅がすごく小さいショートレンジの仮現運動は、実際の運動に近いリアリティを感じるかもしれない……」(パンフレットの監督インタビューから抜粋)
この監督のインタビューの通り、本作の登場人物のほとんどは動きが非常にゆったりしています。
その小さい動き幅でじわ〜と人が動くのがとてつもなくリアルに思えて、「ただの絵」が「実際に生きている」というアニメ特有の喜びみたいなものを感じられて、それだけで感動します(笑)
仕草の細かさでいうと個人的には、嫁ぎ先から手紙を書くシーンで書き慣れていない苗字は遅く、書き慣れた名前はサッと書くみたいな描き方にも唸りました。
で、こういったアニメーションの魅力とか表現のアプローチが、作品のテーマに対して的確かつ完全に合致していて、本当にすごいなと。
要は、「戦時下での人々の生活」を描いた本作の中で、主人公のすず(のん)を含めた登場人物が「ただ生活している」ことにとてつもなく感動や喜びを感じる作りになっているわけです。
画像では伝わりにくいんで是非劇場で(笑)
また、アニメーション表現からの動きのリアリティの追求に加えて、当時の広島の風景や暮らしの様子を徹底的に調べて、それを再現したことによるリアリティもあります。
監督インタビューなんかを読むと、実際に〇〇通りの□□店の店主はどういう人だったかまで調べ上げたそうで、ちょっと狂気すら感じる徹底ぶり(褒めてます)
そのおかげで観客としては、この映画で描かれる時代を追体験しているかのような没入感を感じることができたんだと思います。
リアリティといえば、音のリアリティもあります。料理や掃除のような生活音、空襲の音、対空砲や機銃掃射の音、すべてがリアルに感じられて戦闘シーンなんかはめちゃくちゃ怖いです。
で、この徹底した調査と表現による実在感の追求の果てに出来上がった主人公すずの声をしたのん(本名 能年玲奈)がとてつもない名演をしています!!
すずという女性は、下手したらイライラするぐらいボーッとしてて(笑)それでいてしっかり芯はある人なんですが、その微妙なニュアンスを表現しきったのんさんは本当にすごいです!
「ふへぇ」や「むぅん」とかの言葉とも言えない呻き声(笑)のニュアンスから、幼馴染の水原さん(小野大輔)とのあるエピソードでの、ちょっと大人っぽい声まで完璧にハマっていて、「すず」というキャラクターに文字通り命を吹き込んだともいえる素晴らしい名演でした。
以上の要素から生まれた「すず」という人物が本当に最高でして!!
冒頭、少女時代のすずさんのエピソードから始まるのですが、正座して砂利を踏んで痛そうにするすずさんとか、重い荷物を背負い直すすずさんとか、バケモンにさらわれるすずさんとか、まさに魅力的としか言いようがない魅力!(錯乱した文章)
このすずさんが魅力的だからこそ、後に理不尽な暴力に巻き込まれていく様が本当に辛いところもあるのですが、映画を観た感触としては、全編通して非常に笑える作品になっています。
戦時下の生活を描いているにも関わらず"笑える"ようになっているのは、なるべく戦争をセンセーショナリズムで描かないことに加えて、やはりすずさん含めた登場人物が普通に生活をしているからだと思います。
我々未来人から見たら昭和20年は悲惨極まりないことが起きた年ですが、その中で生きていた人は、自分たちの普通の生活を送っていた。それは、状況は違えど現代の生活となんら変わらないもの。だから普通に笑うし、たわいもない喧嘩もする。
そういったことを、本作のとてつもない実在感が観客に肌感覚として伝えているようになっていると思います。
さて、先ほどから「実在感」だの「リアリティ」だの書いてきましたが、本作は徹底した「現実=リアル」を描いているわけではありません。そしてこの部分こそ、本作の感動的な部分だと思います!
本作はハッとする場面で美しい映像的な飛躍の瞬間がありまして。
突然画面が水彩画になったり、突然カリグラフィー的な映像になったりして、まさしく映画的な飛躍が素晴らしいです!僕はこのイマジネーションの飛躍に序盤から完全に引き込まれました。
これは是非劇場で体験していただきたい!!
この映像の飛躍が起きるのは、すずさんの感情が大きく動く時でして。というのは、すずさんは絵が好きで、絵を描くことで感情を表現する人であると。
つまりこの映像的なイマジネーションの飛躍は、すずさんが見ている「現実=リアル」なんですね。そしてその美しさ、鮮烈さたるや。
物語の中盤、あることがきっかけですずさんの表現する術が奪われてしまうのですが、失ったからこそ新しい想像力が生まれ、得られたものもある。ラストの一連のシークエンスは、そんな想像力の力強さや希望も讃えていると感じました。
少女時代に養った豊かな想像力、少女から大人になることの難しさとその過程で得た愛する人たちとの生活、戦争という理不尽な暴力、たくさんの死。
全部ひっくるめて、この世界の片隅に自分の居場所があれば生きていける、という本当に勇気と希望をもらえるような作品でした。
大仰な文章を書いてしまいましたが、基本的には明るくて笑えて可愛らしい、それでいてズシンと感動がくる映画です!!また、あの時代を歴史としてではなく現在と地続きであると実感させてくれる映画です。
細かいこと言い出したら、隅々に散りばめられた伏線の上手さが最高!!すずさんと周作の夫婦が可愛くて最高!!突然色っぽくなって最高!!灯火管制が解かれて電気の覆いを外すシーンはやっぱり最高!!ご飯うまそうで最高!!原爆のシーンがビックリ!!エンドロールの最後の最後まで優しい目線で最高!!コトリンゴさんの音楽最高!!
と、挙げ出しだらキリがないぐらい最高!!
本当に情報量が多く、観れば観るほど色んなことがわかってきて感動が増しますし、何よりこれは日本映画史に残る大傑作です。
これから何十年、何百年と色んな世代に観られてほしい作品だと思いました。
これからまだまだ劇場も増えていきますし、劇場の雰囲気込みで感動できる作品です!僕も原作読んでからまた観に行こうと思います(笑)
今年ベスト、いや生涯ベスト級の映画でした!!是非劇場でご覧ください!超オススメです!!
早く届いてほしい限りです
公式ガイドブックも気になりますね
本作のラストの時代はこっちに繋がるという。必見ですね。
初見時はこれを思い出しました!結構近い部分があるかも。